Research Abstract |
1.内喉頭筋支配運動神経細胞への中枢性入力の解明 昨年度に成功したことを報告した、herpes simplex virusをtranssynaptic tracerとして用いたトレーサー法を、マウス甲状披裂筋,外側輪状披裂筋(TA/LCA)に応用し、疑核への中枢性投射を神経解剖学的に解明した.輪状甲状筋群,甲状披裂筋・外側輪状披裂筋群の両者で疑核,疑核後核,孤束核,網様核,傍三叉神経核,最後野,前庭神経核に標識細胞を認めた.さらに,甲状披裂筋・外側輪状披裂筋群では,蝸牛神経核にも標識細胞を認めた.これらの結果は、生理学的手法による過去の報告の多くを支持するものであったが、蝸牛神経核から疑核への直接の線維連絡があることが初めて明らかになった。この蝸牛神経核から疑核への直接投射の証明は、聴覚による声帯運動のフィードバック機構を考える上で、極めて興味深い。また、本研究にて、実際の細胞を形態学的に同定でき、今後の研究の発展に寄与するところ大であると考える。 2.疑核における神経再生関連因子発現の解明 1)反回神経傷害後の疑核におけるJAK/STAT系を介した細胞内シグナル伝達系の変化 蛍光神経トレーサーであるDiIを両側甲状披裂筋に注入し、同筋支配運動神経細胞を標識した後、右反回神経を切断し、異なった生存期間の後、脳幹を摘出した。凍結切片を作製し、DiI標識細胞に対して、抗STAT3抗体と抗pSTAT3抗体を用い、免疫組織化学法を行った。反回神経切断後1日目において,切断側ではSTAT3の免疫陽性反応が細胞質で弱く,核で強く認められたが,非切断側ではSTAT3の免疫染色性は弱く,細胞質に限局していた,また,pSTAT3の免疫陽性反応は非切断側では認められず,切断側の核でのみ強く認めたことから,STAT3がリン酸化し核へ移行したことが明らかとなった.切断側ではほぼ全てのDiI標識細胞において,核にのみpSTAT3の免疫陽性反応が認められ,非切断側の核には全く認めなかった.同様の所見は,切断後4,7,10,14日目においても持続して認められた。本研究の結果から,STAT3が反回神経傷害後の機能回復に向けての働きを有している可能性が考えられた。 2)反回神経損傷後の疑核におけるGAP-43の発現の解明 単一細胞レベルでの定量PCR法によりGAP-43の発現を定量した.その結果,疑核運動神経細胞におけるGAP-43 mRNA発現レベルが損傷後7日目で,約8倍上昇していた。単一細胞を用いた遺伝子解析は、従来困難であった疑核のみを扱う遺伝子解析のみならず,疑核のうち,特定の筋へ投射する支配神経に対象を絞っての遺伝子解析を可能としうる優れた方法であると考えられた.今後,声門開大筋と声門閉鎖筋群との遺伝子発現の比較を行えば,以前より問題となっている各筋の易傷性の違いの解明に繋がると考えている。
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