Research Abstract |
本年度の研究の目的は,parchorinの機能,とくに膜移行の機構を明らかにすることにあった.parchorinはそのC末端がCLIC1と非常に相同性が高く,CLIC1は塩素イオンチャネルであることが証明されている.そこで,可溶性蛋白であるparchorinは,何らかの刺激により膜移行し,塩素イオンチャネルとして働くという大胆な仮説が考えられた.前年確立した,Xenopus Oocyteにおける遺伝子発現系を用い,parchorinを発現したところ,塩素イオン電流は測定できなかった.その原因として,卵母細胞膜にparchorinの発現は全く見いだせず,細胞質のみに存在したためと考えられた.つまり,Xenopus Oocyteに限らず,どんな系でも膜移行を惹起しないとその機能が解析できないということである.そこで,細胞におけるparchorinの膜移行の機構について解析可能なモデル系の確立をこころみた.検討の結果,MDCK細胞にparchorinを発現させると,外液塩素イオン除去ばかりでなく,高浸透圧刺激、さらにはGq共役型受容体刺激やそれを模したプロテインキナーゼC活性化+カルシウムイオノフォアにより膜移行が生ずること,さらにこれを定量化する方法も樹立した.また,ビオチン化アッセイ法により,これら刺激でparchorinが膜に挿入されている可能性も示された.この方法論の確立により,parchorinの生理機能の解析は飛躍的に進むことが期待できる(現在投稿準備中). また,前年度において,カゼインキナーゼIIによりparchorinの83,338,393番目の3つのセリンが恒常的にリン酸化されていることを明らかにした.今年度は,このリン酸化の意義について検討し,カゼインキナーゼによるリン酸化を抑制すると,parchorinの分解が速まること,リン酸化部位をアラニンに置換した変異体は不安定で分解が早いこと,この分解はproteasome系により行われていることが明らかとなった.カゼインキナーゼIIはユビキタスに発現し,そのリン酸化の生理的な意義が知られている例は少ないが,今回見出された,parchorinの安定化という機構は,生体の水分調節において,新たな視点をあたえるものと言える(投稿準備中).
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