Research Abstract |
本年度の研究成果は以下のとおりである. (1)表面微細構造制御InN薄膜の作製:InN薄膜は反応性イオンプレーティング法により作製した.反応容器内を10^<-4>Paまで真空排気後,N_2ガスを1 Paの圧力で導入し,N_2プラズマを発生させた.高周波出力は100W一定とした.N_2プラズマ生成後,Inるつぼを加熱してIn蒸気流を発生させるが,このとき,るつぼ温度によりIn流束を制御し,InN薄膜の堆積速度を変化させた.基板にはガラス板を用いた.基板ホルダーは接地電位とし,In流束に対して70°に傾斜させた.比較のために,傾斜角0°の試料も作製した. (2)表面微細構造制御InN薄膜の構造評価:堆積速度14.8nm/min以下において,In:N=1:1の化学量論組成でウルツ鉱型結晶構造を有するInN薄膜が得られた.作製膜は101面配向していることがわかった.SEMによる表面モルフォロジー観察の結果,基板傾斜角度0°で作製した膜に比べ,傾斜角70°で作製した膜は結晶粒が小さく,Shadowing効果によって生じたと考えられる結晶粒集合体間の空隙が観察され,表面積が増大していることが確認できた.作製膜の空隙率を,薄膜の重量と厚さ測定結果に,バルクInNの密度を適用して算出した結果,基板を傾斜させた方が,傾斜させずに同じ堆積速度で成膜した膜に比べて,空隙率が0.1以上低かった.以上のように,基板を傾斜させることにより,表面に微細な凹凸構造を有するInN薄膜を作製することに成功した. (3)表面微細構造制御InN薄膜のEC特性評価:基板を傾斜させて作製したInN薄膜試料において,明らかなEC効果の向上が認められた.すなわち,Asaiらによる「有効表面」仮説が,定性的に証明されたといえる.光学密度変化-空隙率の相関から,傾向としては△OD値は空隙率の減少に伴って増加するが,基板傾斜角が変わると△OD-空隙率の依存性にギャップが生じる.このことは,基板傾斜による空隙率の増大は,必ずしも「有効表面」の拡大に結びつかないことから生じると考えられる.メモリー特性評価の結果,基板傾斜角0°で作製した膜は,約100分で完全に脱色するが,傾斜角70°で作製した膜では,脱色までに約500分を要し,基板傾斜による表面微細凹凸化が,メモリー特性も向上させることがわかった.
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