2002 Fiscal Year Annual Research Report
価値をめぐる真理と存在に関する実在論的考察の可能性と限界
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13610010
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
岡部 勉 熊本大学, 文学部, 教授 (50117339)
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Keywords | P. Grice / D. Charles / アリストテレス / 合理性 / 実在論 / 構成主義 / 価値論 / 人間性 |
Research Abstract |
今年度は、先ず第一には、P. Griceの価値論を研究することを通して、認知主義的な考え方に代わるモラル・リアリズムの新しい可能性に関して展望を開くことができた。1980年代以降、現代の価値論における主要な流れは、D. Wiggins, J. McDowell等の認知主義の考え方に傾いているが、これに対して、実践的推論における合理性rationalityの概念と真理概念をめぐるGriceの考え方は、全く新しいタイプの合理主義的な実在論を可能にするものであると考えられる。Griceの基本的な考え方は、D. Wiggins, J. McDowell等と同様、アリストテレスに基づくものであるが、両者の向かう方向は明らかに異なる。また、Grice研究についての示唆は、昨年Oxford大学を訪問した際にD. Charlesから与えられたものであるが、それ以降のCharlesとの議論を通して、当初考えていた『クリトン』篇のソクラテスを基本的なモデルとする実在論のタイプを、Griceのそれとどう結びつけるかが、新たに今後の課題となった。今年度の最後に、北海道大学で開催されたシンポジウムにおいて、Moral Realism and Deliberative Truthと題するGrice論を中心とする発表を行った。その際、参加者から多大の関心を寄せられ、かつ有益な示唆を得ることができた。 第二には、シンボル使用の起源に関する最近の人類学者、言語学者等の議論、あるいは感情に関する近年の広く学際的領域に跨る議論等を総合的に研究することを通して、人間性と価値に関する反自然主義的な立場、あるいは(Griceも提唱していると考えられる)明確に構成主義的な立場というものが基本的に可能であるということを確認できた。しかし、この点に関しては、構成主義と実在論の親和性という問題を含めて、M. Dummett, B. Williams等の意味論あるいは真理論に関わる極めて中身の濃い議論を整理しつつ、更に検討を加えなければならない。
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Research Products
(1 results)