2001 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
13610043
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Research Institution | Iwate University |
Principal Investigator |
中村 安宏 岩手大学, 人文社会科学部, 助教授 (10282089)
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Keywords | 思想史 / 近世史 / 天皇 / 江戸 / 幕府 / 儒者 / 儒学 / 儒教 |
Research Abstract |
本年度は、近世後期幕府儒者の思想について、その天皇観を中心に考察した。 1、まずは近世の天皇や天皇観をめぐる、政治史およぴ思想史関係の研究書や論文を収集し、従来の研究成果を整理検討するとともに、幕府儒者にこだわらず儒学者、神道家、国学者、水戸学者など近世知識人の天皇観に関する史料を収集して、近世における天皇観のおおよその内容と展開について整理した。また、思想史の立場から近世の天皇観にアプローチしようとする場合の方法や視点を明確にすることに努め、第一に天皇に直接かかわる問題として、各思想家の、皇統についての理解、および記紀神話の解釈、第二に天皇の問題と関連する間題として、朝廷と幕府との関係づけ方(朝幕関係)、世界と日本との関係づけ方(国家意識・国際認識)の計四点に注目し、各思想家における、これらの内容と相互の関連性とを明らかにすることが有効であると考えた。 2、1の作業をふまえて林述斎、柴野栗山、佐藤一斎、古賀伺庵関係の史料を中心に、調査収集および分析を行った。以前私は、尾藤二洲の天皇観について考察した際に、後期水戸学などに見られる「世界のなかでの日本における君臣関係の優越性を示すものとしての皇統の連続」という理解とは異なる、「日本における文化保存の優秀性を示すものとしての皇統の連続」という理解が見いだされることを指摘した(「尾藤二洲の天皇観・皇統意識」フィロソフィア・イワテ第32号、2000年11月)。これと同様の皇統理解が、二洲だけにとどまらず林述斎や佐藤一斎などにも見られ、幕府儒者内においてほぼ共有されたものとなっていたこと。しかしながら幕末期にいたると、幕府儒者古賀洞庵により、大砲・戦艦など西洋先進技術の導入を説く国防上の観点から、述斎や一斎のような皇統理解を克服しようとする意識があらわれていたことが明らかになった。
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