2001 Fiscal Year Annual Research Report
演奏実践に投影された音楽美学思想〜20世紀の線的・対位法的演奏解釈が根ざすもの〜
Project/Area Number |
13610053
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Research Institution | Iwate University |
Principal Investigator |
木村 直弘 岩手大学, 教育学部, 助教授 (40221923)
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Keywords | シェンカー / グールド / 遠聴 / 対位法 / フルトヴェングラー / シュナーベル |
Research Abstract |
初年度であ.る平成13年度は、音楽学における楽曲分析の一つの主な流派となっているシェンカーふう分析が由来するシェンカーの音楽思想と現代における対位法的要素を強調した演奏の代表者であるグレン・グールドとの思想的連関について検討し、その結果、グールドが直接シェンカー理論について言及することはなかったが、多くの思想的共通点があり、密接な関連がみられることが明らかとなった。シェンカーのUrlinieやZugといった線的概念は、有機体としての音楽作品に内在する、時として遠くに離ればなれになっている因果関係、即ち「楽譜の数ページにも及ぶ大きな連関」を聴取するこの「遠聴」を説明するためのものであったが、まさに大指揮者フルトヴェングラーがシェンカー理論の核と認めたのがこの概念であり、やはりフルトヴェングラー同様シェンカー理論に大きな形響を受けたシュナーベルを尊敬していたグールドの線的構造分析に基づく対位怯的要素が強調された演奏美学の淵源をシェンカーの音楽思想に措定することも強ち無理とはいえない。また、グールドにとって、対位法的音楽とは美的にだけでなく倫理的にも優れているものであったが、まさに、厳格な規則の下で管理されて音が配列された対位法的音楽は、純粋なるもの、絶対的なるものといった概念と結びっき、集中的な「構造的聴取」を要求する。20世紀の初頭にシェンカーが敢えて『対位法』2巻を世に問うたのも、曲の本質を無視して大衆の好みに迎合しようとした演奏が氾濫している当時の音楽界を憂えたからであり、まさに、そうした面でも「コンサートは死んだ」としたグールド的姿勢とシェンカー的思想は「対位法」をキーワードに密接に関わり合っていることが看取できるのである。そして、グールドのレパートリーが独墺系に偏していた点も、シェンカー、フルトヴェングラー、シュナーベル、そしてひいてはアドルノの系譜に列していることを如実に物語っているのである。
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