2002 Fiscal Year Annual Research Report
演奏実践に投影された音楽美学思想〜20世紀の線的・対位法的演奏解釈が根ざすもの〜
Project/Area Number |
13610053
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Research Institution | Iwate University |
Principal Investigator |
木村 直弘 岩手大学, 教育学部, 助教授 (40221923)
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Keywords | グレン・グールド / チェリビダッケ / フルトヴェングラー / シェンカー |
Research Abstract |
初年度は、対位法的演奏解釈に特色があるピアニスト、グレン・グールドの音楽演奏美学に関連して、その線的・対位法的演奏解釈の淵源を調査したが、2年目の年度にあたる平成14年度は、彼の「構造」志向をについて更に追究したアドルノがシェーンベルクの音楽を最後の1音まで作曲しつくされているとして褒め称えたのと同じ文脈で、グールドは「論理的な」音楽への賞賛を惜しまなかった。彼は、自らの演奏習慣の根拠が楽曲の「構造」にあるとし、構造をいかに明確に表現するか、則ち、いわば演奏表現を構造にいかに従属させるかといった点に重きをおいていた。こうした観念主義的傾向は本人も認めているようにシェンカーに傾倒していたピアニスト、シュナーベルに由来している。 一方、「録音」に対してはグールドとは正反対の立場にある(つまり「録音」を拒否した)カリスマ的指揮者セジュ・チェリビダッケについて、グールドも賞賛したフルトヴェングラー的な影響が現代にどう伝わっているかを示す例として取り上げた。概して「遅いテンポ」に特色があるとされる彼の演奏は、実は、解釈ではなく存在論的に発生するものという信念にもとづいており、グールドにみられた音楽の即興的要素に対する侮蔑といった面と通底する面が看取できた。こうしたシェンカーの「遠聴」概念に通ずるアドルノ的「構造的聴取」志向は、(シェンカーの弟子であった)フルトヴェングラーから共に大きな影響を受けたグールドにもチェリビダッケにもみられるが、前者は「構造」を線的・対位法的側面を際だたせることによって浮かびあがらせたのに対して、後者は、フルトヴェングラーやアドルノに列する、すでに失われたものの「救済者」的志向の系譜にを最後まで連なったと言いうることが明らかになった。
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Research Products
(1 results)