2001 Fiscal Year Annual Research Report
ラットの片眼摘出及び脳損傷による補償作用に及ぼす暗環境の効果
Project/Area Number |
13610091
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Research Institution | 佐賀医科大学 |
Principal Investigator |
酒井 誠 佐賀医科大学, 医学部, 教授 (80124808)
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Keywords | 片眼摘出 / 視覚野破壊 / 暗環境 / 白黒弁別学習 / 神経栄養因子 / ラット |
Research Abstract |
われわれはこれまで出生時片眼摘出によって生じる補償機能について調べてきた。出生時に片眼を摘出されたラットは13週令で摘出されたラットより限られた条件の下で白黒弁別に対する処理能力が高いことを行動的に観察してきた。 このような研究の一環として片眼摘出と摘出眼側の幼若時視覚野破壊を組み合わせて実験を行った。その結果、このような場合には、片眼摘出は摘出時期に関係なく、残された視覚系の機能を高進させることを確認した。すなわち右眼欠損、右視覚野破壊の状態でラットは白黒弁別課題を等しく獲得することができたのである。このメカニズムとして有力視されるのは、幼若時視覚野破壊によって神経栄養因子が多量に放出され視覚系の再編成が促進されるという可能性である。しかし、この推論に対しては、成熟する過程で光刺激にさらされたため残存する視覚系が機能したのだという反論があった。今年度はこの疑問に答るため3週令視覚野破壊から13週令で白黒弁別訓練を行う直前まで暗環境で飼育し、光刺激の影響を受けないような処置をとった。 その結果、出生直後に片眼を摘出されたラットも成熟時に片眼を摘出されたラットも、光環境の中で育ったラットと同じように白黒弁別課題を獲得することが分り、上述の反論は実験的に支持できないことが確認された。今年度の研究では、さらに残存眼と同側の視覚野を破壊して、同じ課題を与え、視覚野の役割を確認する試みを行ってみた。すると、成熟時に片眼を摘出されたラットは、100試行以内で再学習が成立した。このような現象はこれまでには観察されなかったものである。成熟時に片眼を摘出されたラットでは、暗環境下で皮質視覚野以外の部位が白黒弁別の処理に係わるほど機能するようになったのかもしれない。次年度は、その部位を特定する試みを行い、成長因子による再編の可能性も含めて、視覚系の補償作用のメカニズムの解明をさらに進めたい。
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