Research Abstract |
ある日,突然生じる脳血管障害などで,コミュニケーションが困難になる失語症者に対して,近年では,失語症をかかえながら,その後の人生を充実して過ごすために,心理社会的な対応が広く求められるようになってきている。失語症者の心理社会的な問題を解決するための方法として,地域社会の人々が,失語症の症状やコミュニケーションの取り方を理解することで,失語症者とより円滑なコミュニケーションを行うことなどが必要である。 本年度は,医療福祉関連職にすでに携わっている人々を対象に,失語症者とのコミュニケーションの取り方を学習するために開催された「医療専門職のための会話パートナー養成講座」を利用して,参加者の講座前後のコミュニケーションの取り方について,質的な分析に基づいて,比較検討した。講座参加者は,ホームヘルパー,介護職員などの方であった。その結果,講座後には,書字などの代償手段を使うようになった,といった効果が見られた一方で,失語症者の反応を待てずに会話を進める,コミュニケーションノートなどの代償手段を使いすぎることによって,かえって話題が深まらなくなった,といった問題も見いだされた。 また地域社会一般の人々を対象にした「会話パートナー養成講座」を利用して,参加者の講座参加前後のコミュニケーションの取り方について,9段階の評価尺度を利用して,量的な評価を行った。量的な側面からは,大きな変化は見いだされなかったが,質的な分析においては,失語症者の表出・理解能力に応じて,会話パートナー側が,応答手段を工夫して利用するようになったなどの効果が見いだされた。 今後は「失語症ボランティアのための教育プログラム」の効果をより適切に測定するために,会話パートナーのコミュニケーション方法についての評価法の開発が不可欠であると思われた。
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