Research Abstract |
一般的に中高年者の認知・記憶機能は,加齢の影響によって低下していく.しかしながら,高齢者が日常生活を営む上で,加齢の影響によって認知・記憶のどういった側面に関し,衰退しているかをどのように感じているかに関する研究は,老年心理学の分野では行われていない.そこで,高齢者自身が日常生活を営むうえで,認知・記憶のどのような側面において支障をきたしていると感じているかを明らかにすることを目的とし,質問項目を作成し,高齢者を対象として調査を行ってきた. 本年度は,宮城県気仙沼市大島の島民を対象者として,55歳以上の悉皆訪問調査を実施した.テストバッテリーには日常記憶・認知に関する質問紙も含まれていた.数年間の筆者の研究結果の知見に基づき,表情認知,最新情報機器の使用,展望的記憶,環境認知,自伝的記憶,記憶補助,注意の因子を反映すると考えられる最適な項目をそれぞれ2項目ずつ再度選出した.さらに,記憶に関しては,符号化,検索などの具体的な8項目も選出した.合計22項目であった.回答には「はい」「いいえ」の2件法を用いた. 1134名の回答が得られたが,改訂長谷川式簡易知能評価スケールが20点以下の痴呆の疑いのある者および介護認定を受けている207名は分析から除外し,927名の健常な高齢者のみを対象者とした.因子分析を行った結果,最適解として8因子が抽出された.それら8因子は,(1)最新情報機,(2)表情認知,(3)忘却,(4)貯蔵・符号化,(5)自伝的記憶,(6)環境認知,(7)記憶補助,(8)展望的記憶と命名した.また,927名の対象者のなかから,65歳以上80歳以下の高齢者546名の因子分析を行ったが,因子構造がほとんどおなじ結果が得られた.これらの結果によって因子の再現性がほぼ確認されたと考えられる.
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