2003 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
13610336
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Research Institution | Takasaki University of Health and Welfare |
Principal Investigator |
広井 多鶴子 高崎健康福祉大学, 健康福祉学部, 助教授 (90269308)
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Keywords | 親子関係 / 親孝行 / 自然 / 情愛 / 修身教科書 / 宗教 |
Research Abstract |
昨年度は、明治初年以降の修身教科書に記載された親孝行に関する例話の分析を行なった。明治初年には、子の親に対する一方的で多大な自己犠牲を讃える孝行譚が少なからず見られたが、明治30〜40年代には、親と子相互の「自然の情愛」と子を養い育てる親の「本分」を前提とした内容へと変化していくことが分かった。 そこで、今年度は、親と子の「自然の情愛」という言説がいつどのように成立したかについて、明治初年の雑誌などから分析を試みた。先行研究によれば、江戸時代、「自然」は主に「おのづからなる」という意味であり、今日の<自然=nature>とは異なるとされる。また、「愛」は、江戸時代、我執や執着心といったネガティブな意味を含む言葉であり、とくに母親の愛は「姑息の愛」として否定的に捉えられていた。 ところが、明治初年に文部省が発行した雑誌に多数掲載された翻訳論文を見ると、「天性」「天然」の親の愛が子どもを養育する上で何よりも大事なものであり、とくに母親の愛こそが重要なものとして捉えられている。また、江戸時代の子育て書でさかんに説かれた親孝行=子どもの親に対する従順さは、子どもを教育するための手段として位置づけられるようになる。こうした明治初年の翻訳書に見られた「天性」の愛に基づく親の任務という言説が、その後、広がったものと思われる。しかも、「天性」「天然」「天道」といった「天」の観念は、<宗教>という概念が成立し、宗教と国家、宗教と教育との関係が問われた明治20年代〜30年代にかけて衰退し、その結果、もっぱら<自然>という概念によって親子関係が説明されるようになっていくものと考えられるが、この点の具体的な検証は今後の課題である。
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