2003 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
13610401
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Research Institution | Kogakkan University |
Principal Investigator |
上野 秀治 皇學館大学, 文学部, 教授 (70072428)
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Keywords | 岩倉公実記 / 香川敬三関係文書 / 三条実美公年譜 / 歴史観形成 |
Research Abstract |
『岩倉公実記』は岩倉具視の伝記であるとともに,幕末から明治16年までの日本の政治史を叙述したものといってもよい。この編纂は具視に信頼されていた宮内少輔兼皇后宮大夫香川敬三に委嘱され,18年より関係者への資料提供を呼びかけ,年譜稿が作成された。20年ごろ明治天皇の指示で絵伝の作成にかかり,田中有美によって下絵が作成されたものの中断,20年代後半には伝記編纂が始まり,36年12月に稿本が完成した。実際執筆者の中心は多田好間であったが,費用は20年代は皇后の手許金から賄われていた。 39年9月『岩倉公実記』上下2冊で100部弱を印刷-刊行したが,40年代に,中断していた「岩倉公絵巻」に再び着手、湯川松堂が絵を描いて完成,詞書が付された。 以上の経緯が香川敬三関係文書により解明できた。岩倉の伝記編纂開始後の明治21年から三条実美の伝記編纂が始まり,24年からは宮内省図書寮で編纂,39年12月に『三条実美公年譜』を完成(34年刊行)させている。また40年には『三条実美公履歴』(絵伝)を刊行している。『岩倉公実記』より先に完成をみているが,岩倉,三条の伝記を比較すると,年譜が作成されていること,絵伝が作成されていることに共通性が見い出せる。ただし岩倉の場合,年譜は刊行されずに,さらに進んで伝記が叙述されたことが異なる。伝記叙述となると,歴史的は評価が含まれることになり,香川と言う一個人に任された事業であったことからできたものと推察される。一方図書寮で編纂された三条の伝記は,歴史的評価を加えないですむ年譜でとどめていて,無難な編纂をしている。役所での編纂である故の限界ともいえよう。また絵伝が両者とも作成されているのは,写真がなかった当時,伝統的な歴史叙述の一つの方法として利用された絵巻が,よりわかりやすいものと認識されたためであり,天皇自身が絵伝作成を好ましいと考えていた。
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Research Products
(1 results)