2003 Fiscal Year Annual Research Report
11世紀から13世紀のイングランドにおけるジェントリ的州共同体の社会と構造
Project/Area Number |
13610455
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
鶴島 博和 熊本大学, 教育学部, 教授 (20188642)
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Keywords | 騎士 / ジェントリ / 州共同体 / アイデンティティ / 地域 / 11世紀 / 海民 |
Research Abstract |
2003年7月9日より8月4日まで、連合王国において英国図書館とロンドン大学歴史研究所において史料収集を行った。また、7月14日から17日までリーズ大学で開催された国際中世史学会に出席した。それは、7月16日の1009分科会「中世イングランドにおける諸結合とアイデンティティ」の企画責任者としての参加であった。今年度の発表論文は二本あり、いずれも論文集に掲載されたものである。第一論文は、ノルマン征服前の10世紀後半から11世紀にかけて、州の裁判集会での紛争を解決していくプロセスに参加した「よき人々」と呼ばれる集団が、ジェントリと定義してよい役割を果たし、彼らの日常的な生活領域が、州に地理的枠組を与えたこと、彼らの行為が、紛争における責任の確定ではなく、平和的解決を目的とした地域の統合を目指したものであったこと、彼らの出現によって現代まで続く持続的な地域社会の根幹が誕生したこと、を明らかにした。第二論文はノルマン征服によってノルマンディから移住した騎士家族であるヴィターリス家の歴史を、11世紀後半から13世紀まで追跡し、同家がどのような過程を経て在地化してジェントリとなっていったかを検討したものである。征服直後は、騎士であると同時にカンタベリの商人家族と関係し、英仏海峡における海事に精通した、謂わば「海民」的性格をもっていた同家が、12世紀を通してその海浜集落を手放し、内陸的農村ジェントリに転化していく様を描いた。また史料収集によって、中世イングランドの庶民生活が、海産物に大きく依拠していたことが判明した。ケントにおいては、安価な牡蠣の大量採集が、貧民層も含めた庶民の冬場の蛋白源として欠かせないものであった。そして第二論文で対象としたヴィターリス家の保有していた海浜所領群が、この牡蠣採集漁の基地であり、同家の海民的性格が、海上交易のみならず、漁業の統括者としての側面を持っていたことが判明した。ここに、採集基地と流通拠点であるカンタベリとロンドン、流通圏であるケント、イングランド、海峡世界が視野にあがり、諸地域社会の結合の動態を描くことができる見通しが可能となった。
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Research Products
(2 results)