2002 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
13610498
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
長島 弘明 東京大学, 大学院・人文社会系研究科, 教授 (00138182)
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Keywords | 建部綾足 / 伝記 / 国学 / 読本 |
Research Abstract |
研究の2年次に当たる今年度は、主に建部綾足の国学関係業績について調査し、綾足の国学研究の性格を明らかにした。 1.綾足の『伊勢物語』研究は、真淵の研究の系統を引くものの、独自の説が多いこと、また、刊行した『旧本伊勢物語』が偽書であることからもわかるように、本文系統論や古態論の観点からは不備が多々あることを明らかにした。 2.綾足が晩年に力を注いだ『万葉集』研究については、たとえば『詞草小苑』は、真淵の『冠辞考』や長流の『枕詞燭明抄』の影響があるが、この書の執筆・編集で綾足が意を用いたのは、枕詞の語源を新たに探ることよりも、むしろ擬古文を制作する時の手引きとなることであり、研究書であると同時に、実用書的な色合いが濃いことを指摘した。また、『万葉綾足草』や『万葉以佐詞考』では、語義・語源の解釈に反切を多用しており、綾足の古語解釈法の基本が、この独特の反切の適用にあることを明らかにした。 3.綾足には、『歌文要語』、『はし書ぶり』、『後篇はしがきぶり』など、和語(古語)集あるいは和文用例集の編著が多い。これは、歌文の創作を国学研究と不可分とする、綾足の国学観に基づいたものであることを指摘し、それが『西山物語』『本朝水水滸伝』などの読本制作にもつながっていることを指摘した。またそれらの和語集あるいは和文用例集の編集・刊行が、文章(和文)研究史における先駆的な試みであることを明らかにした。 4.綾足周辺の国学者として、賀茂真淵・加藤宇万伎・上田秋成・加藤千蔭らがいるが、真淵門下に属しながらも、研究方法においても、研究動機においても、特異である綾足の国学のあり方を明らかにした。
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