2002 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
13610505
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
高橋 亨 名古屋大学, 文学研究科, 教授 (10093048)
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Keywords | 無名草子 / 源氏物語 / 物語観 / 書目 |
Research Abstract |
本年度は、『無名草子』と関連する物語評論と和歌資料の調査を主として、文学史的な位置づけのための基礎的な検討を行った。『無名草子』が王朝<女>文化を「作り物語」を中心にして論じていることは明らかであるから、逆に、何を対象とせず、その判別基準が何かとい問題意識のもとに従来の研究成果を個別に再検討することとなった。 安居院澄憲『源氏一品経表白』は、仏教的な文学観を前提としつつも、狂言綺語観によって『源氏物語』をはじめとする物語の罪を救済しようとする。『無名草子』に先行して、一見すると正反対の否定的な物語観を示しているが、八条院の女性を施主とした<女>文化と『源氏物語』との接点にある。『無名草子』と同時代の和歌的な物語観の資料として、『物語二百番歌合』をはじめとする藤原定家およびその父の俊成に関連する資料の検討からは、『無名草子』との共通性を多く見出せるが、異質性は弱い。とはいえ、『無名草子』における俊成と定家への親密さを前提とした批評は注目される。 新たな展望としては、顕昭に代表される六条家の歌学の系譜にある上覚『和歌色葉』と、頼瑜『真俗雑記問答鈔』にみられる書目との比較である。それらは仏家における「歌書目録」といえるものだが、物語や日記を含んでいる。『無名草子』とほぼ同時代の、まったく異質な物語観がうかがえる。ジャンル論を含めた、新たな関連資料の端緒となると思われる。なお、関連資料かと期待された善光寺大勧進蔵『源氏物語事書』の著者「実朝」は、源実朝ではない僧で、時代も下る可能性が強い。
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