2003 Fiscal Year Annual Research Report
江戸時代中期におけるメディア共同体の形成と出版文化ネットワークの研究
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13610524
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Research Institution | Mukogawa Women's University |
Principal Investigator |
西島 孜哉 武庫川女子大学, 文学部, 教授 (20102808)
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Keywords | 西鶴 / 好色一代男 / 年代記 / 江戸時代 / 文化サークル / 出版 / 書肆 / 近世 |
Research Abstract |
出版文化を解明するためには、作者の主体性と書肆の営為との相関を明らかにするとともに、さらに作者や書肆を取り巻く出版文化サークルの中での相互の影響関係を吟味することが必要である。作者・書肆達は知的ネットワークをはりめぐらして文化を生み出しているのであり、それはメディア共同体と称すべきものである。本研究課題は、作者・学者及び出版書肆の営為である著述と関わるメディア共同体の働きを解明することを目的としている。 今年度は西鶴と出版メディアの相関を中心にとり上げた。従来西鶴の『好色一代男』の一代記としてのあり方は、『源氏物語』などのパロディーを意図したものと考えられてきた。それは西鶴の創作の基本的な発想として疑われることがなく、また西鶴の個人的な営為、主体的発想として捉えるものであった。西鶴が出版という新しいメディアを獲得し、文化サークルの中で活動していたことを考慮しないものであった。西鶴の周辺には跋文の筆者である西吟を含めて様々な人々が存在していたはずである。跋文にいう「転合書」ということは、それらの人々に共通する意識であった。それは町人を中心とした文化サークルで受け入れられるもので、町人の教訓への転合という意味であった。西鶴はそのような共通認識の中で前半4巻を創作したのであろう。さらに『生玉万句』の出版以来培ってきた出版メディアへの理解・対応を活かして、別に創作していた後半4巻を一代記構想に加えて全体構想を立てたのであった。それが目録にみる年代記の構想であったといえる。その意味で文化サークルの中での営為として年代記設定がなされたといえる。西吟が跋文で『一代男』という書名に触れていないのも、そのような事情を物語るものであろう。
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