2001 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
13610574
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
中村 裕英 広島大学, 総合科学部, 教授 (60172433)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
JEROME Shapiro 広島大学, 総合科学部, 助教授 (10263641)
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Keywords | シェイクスピア / マクベス / コロニアリズム / ハイブリッド / 蜘蛛巣城 |
Research Abstract |
本年度はシェイクスピアの『マクベス』を映画化した黒澤明監督による『蜘蛛巣城』を中心に研究した。シェイクスピアの劇を安土時代の日本を舞台に翻案したこの映画は、グレゴリー・コジンチェフによって「シェイクスピア映画の最高傑作」と批評されているが、そうした西洋の批評家による高い評価の根底には、彼らにとって未知なる東洋芸術である能への畏怖と尊敬がある。しかも、実際に能を見た経験からなされた批評というよりは、多分に繰り返し本の中で再生産される「日本的なもの」を黒澤の映画から読取ろうとする点で「オリエンタリズム」的なものである。さらに、そうした「日本的なもの」を理解する知的枠組みはあくまで西洋的なものであり、したがって、鷲津の行為がヨブやサタンとの比較によって理解されるようなことになる。一方、日本人による『蜘蛛巣城』の理解は、シェイクスピアの『マクベス』についての知的・学問的理解に基づいた映画批評が多いが、西洋の批評や意見を参考にしたり批判したりするなかで目立つのが、西洋の批評家による『蜘蛛巣城』の高い評価への驚きである。それは日本映画であるにもかかわらず世界にも通用するというより、「日本的である」が故に世界に通要するのだという事実が、当時の日本人に初めて認識されたためであろう。現代では「日本的なもの」が「西洋的なもの」によってかなり影響を受けているが、こうした状況は日本人の知覚にも影響を与えており、純粋に日本人的な反応を日本人は西洋文化にできなくなっている。これは一種の文化的コロニアリズムの状況であるが、むしろ、私たちはそれを「ハイブリッドな」状況として、新たに積極的に理論化する時期に来ているのではないか。
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Research Products
(2 results)