Research Abstract |
ロマンス語語源辞典の中心的存在であるWilhelm Meyer-LubkeのRomanisches etymologisches Worterbuch(Heidelberg : Carl Winter)の各版間の移動を詳細に調べると,初版(1911-1920),第2版(1924)の前期版と第3版(1930-1935),第4版(1968),第5版(1972),第6版(1992)の後期版との間に大きな溝があることが分かる。前期版では"Worterbuch"の部分が734ページであり,後期版が"Nachtrage"を含めた"Worterbuch"の部分が814ページであるという,単なる補遺的な付け加えではなく,前期版と後期版の両者は,根本から語源的解釈を異にする辞典である。 これは,前期版にはなく後期版に新たに加えられた項目,例えば,1a,31a,33a,42a,51a,51b,55a,58a,71a,71b,87a,97a等や前期版にはあったが後期版において削除された項目,例えば,3,22,26,36,40,48,54,60,64,75,83,84,97等を詳しく考察すれば明らかとなるのである。 また,後期版において新たに加わった参考資料に注目すると,後期版ではAIS, AOR, AR, BAE, Baric'のAlbanorum. Studien, Battisti, Trent.など相次いで出版されたロマンス語学史上,重要な資料が加えられている。Meyer-LubkeのRomanisches etymologisches Worterbuchの前期版と後期版の違いは,ロマンス語学の進歩と密接な関係があり,ロマンス語学の発展を反映した成果が後期版であると考えられる。 今回は,さらに他の二つのロマンス語語源辞典との体系的な比較も試みた。ロマンス語学史上,最初の語源辞典であるFriedrich DiezのEtymologisches Worterbuch der romanischen Sprachen(Bonn : Marcus,初版(1853),第2版(1861),第3版(1869-1870),第4版(1878),第5版(1887))と,その次に出版されたGustav KortingのLateinisch-romanisches Worterbuch : Etymologisches Worterbuch der romanischen Hauptsprachen (Paderborn : Schoningh,初版(1890-1891),第2版(1901),第3版(1907))の二種類のロマンス語語源辞典がどのようにMeyer-LubkeのRomanisches etymologisches Worterbuchに組み込まれたかを調べた結果,先行研究の轍を踏むのを避けたかったためか,あるいは前述のような新しい研究成果に目が移ったためか,先行の二種の語源辞典を支持にせよ,反論にせよ十全に利用されたとは言い難い。 結論として,Diez, Korting, Meyer-Lubke前期版,同後期版という四種類のロマンス語語源辞典が存在するとかんがえてよい。
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