2002 Fiscal Year Annual Research Report
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13610672
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Research Institution | Ritsumeikan Asia Pacific University |
Principal Investigator |
吉本 智慧子 立命館アジア太平洋大学, アジア太平洋学部, 教授 (70331105)
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Keywords | 契丹小字 / 女真文字 / 動詞の語尾 / 名詞の格と数 / 表音文字の表音方式 / 二次長母音 |
Research Abstract |
本年度は契丹文字に研究の重点を置いた。まず新出の三件の契丹小字墓誌(『耶律永寧郎君墓誌銘』『韓高十墓誌』『韓敵烈墓誌』)に現れた契丹語の語法現象を分析した。その成果が「契丹語名詞の格と数」「契丹語動詞の語尾」「契丹語の序数詞」である。語法現象を解明するには、大量の契丹語の語彙を解読せねばならず、これらの語彙から契丹語がモンゴル語族の言語に共通の側面と、その独自性を体現した側面をもつことが看取される。語彙を解読すると同時に契丹小字の表意文字・表音文字という二重の性格に対する立ち入った理解を獲得した。その成果が、「契丹小字の音韻再構」である。語音を正確に復元した結果、契丹小字墓誌全文の釈読が可能になり、釈読の結果は『遼史』に記述された契丹民族史上の諸問題に新たな認識をもたらした。その成果が「高九大王世系考」である。 前年度に重点を置いた女真文字研究をも継続し、画期的な進展があった。まず、一九九〇年代にモンゴル国で発見された女真文字石刻について全面的な考釈を行い、その結果、この石刻が極めて高い歴史的価値をもつこと、すなわち、女真言語文字研究に新しい語彙や新しい語法現象を提供するだけでなく、金史研究にも豊富な新資料を提供することを証明した。その成果が「『蒙古九峰石壁女真文石刻』の考釈」である。次に、長期に渡って不明であった女真小字の実態につき検討を加え、中国東北地区で出土した四枚の金銀符牌に刻まれた未解読の文字に対して考釈を行い、これらが女真小字であることを証明した。その成果が「女真小字新考」である。このほか、金代女真語と明代女真語の特徴や親属言語との関係についても詳細な研究を行った。その成果が「金代女真語の満洲通古斯語族における位置」「明代女真語の母音体系」である。 女真文字・契丹文字双方に対する十分な認識を基礎に、「再論女真語無二次長元音」は契丹文字と女真文字がもつ共通の表音方式を論拠として、女真語に二次長元音が存在しないという重要問題をあらためて証明した。 本年度の研究成果は、今後の研究の堅実な基礎となる。次年度の研究計画は、この基礎の上にさらに契丹小字の語彙の釈読の範囲を拡大し、契丹小字の表意文字としての性質および言語研究の成果による『遼史』の遺漏や錯誤の補正につとめるものとする。
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Research Products
(10 results)
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[Publications] 愛新覚羅, 鳥拉煕春: "契丹小字の音韻再構"立命館大学. 577号. 1-63 (2002)
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[Publications] 愛新覚羅, 鳥拉煕春: "明代女真語の母音体系"立命館言語文化研究. 14巻1号. 245-276 (2002)
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[Publications] 愛新覚羅, 鳥拉煕春: "金代女真語の満州ツングース語族における位置"立命館言語文化研究. 14巻2号. 171-186 (2002)
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[Publications] 愛新覚羅, 鳥拉煕春: "再論女真語無二次長元音"ALTAI HAKPO. No.11. 63-78 (2002)
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[Publications] 愛新覚羅, 鳥拉煕春: "高九大王世系考"東亜文史論叢. 創刊号. 94-102 (2003)
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[Publications] 愛新覚羅, 鳥拉煕春: "『蒙古九峰石壁女真字石刻』考釈"東亜文史論叢. 創刊号. 160-175 (2003)
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[Publications] 愛新覚羅, 鳥拉煕春: "女真小字新考"東亜文史論叢. 創刊号. 154-159 (2003)
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[Publications] 愛新覚羅, 鳥拉煕春: "契丹語動詞の語尾"愛新覚羅鳥拉煕春. 創刊号. 24-54 (2003)
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[Publications] 愛新覚羅, 鳥拉煕春: "契丹語名詞の格と数"東亜文史論叢. 創刊号. 1-23 (2003)
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[Publications] 愛新覚羅, 鳥拉煕春: "契丹語の序数詞"東亜文史論叢. 創刊号. 55-63 (2003)