2002 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
13620079
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Research Institution | The University of Tsukuba |
Principal Investigator |
赤根谷 達雄 筑波大学, 社会工学系, 教授 (00212407)
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Keywords | 核兵器廃絶 / 核抑止 / 核不拡散 / 拡散対抗 / 冷戦の終焉 / 同時多発テロ / イラクと北朝鮮 / 政策の窓 |
Research Abstract |
本研究の目的は、冷戦後の核戦略論を検討し、核兵器廃絶レジームが形成されうるための条件は何かを探ることにある。研究の結果、以下が明らかになった。まず分析の大枠組として、「政策の窓」概念による意思決定モデルが有用であることである。核兵器廃絶の意思決定がなされるためには「政策課題の流れ」と「政策案の流れ」と「政治の流れ」の全てがうまく合流しなければならない。「政策課題の流れ」では、既存の核政策の転換を促す重要な出来事があった。即ち、(1)冷戦の終焉、(2)インドとパキスタンの核実験、(3)イラクや北朝鮮による核兵器開発疑惑、(4)米国の9.11同時多発テロである。(1)は核兵器廃絶という政策課題を提起する契機であったが、(2)、(3)、(4)により、核兵器の拡散防止や拡散対抗という政策課題の方が注目を集め、核兵器廃絶が後景に退いてしまった。「政策案の流れ」では、核抑止論に対する批判並びに既存の核抑止体系に代わる代替案は、既に多数存在している。しかし冷戦の終焉以降も圧倒的支持を集めているのは核抑止論であり、また米国では近年、核兵器廃絶よりも核不拡散と拡散対抗政策の議論が盛んになった。「政治の流れ」では、クリントン政権の頃は、核兵器廃絶に向けて政治の流れが好都合であったが、指導者の理解とリーダーシップを欠いていたために、狭い軍事的思考を克服できなかった。ブッシュ共和党政権の誕生以降は、核兵器廃絶を支持する政治の流れは途絶え、米国の軍事的優位の確保と核不拡散及び拡散対抗の方へと政治の関心が向くようになってしまった。核抑止論を相対化し、核廃絶への道を描いた政策案は実際には多数存在している。しかしそれが実際に採用されないのは、核廃絶が喫緊の政策課題として認識されなかったこと、そして核兵器問題についての政治レベルでの深い理解とイニシャチブの欠如である。その克服こそが核兵器廃絶のための条件である。
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