2002 Fiscal Year Annual Research Report
「生物多様性条約と南北問題」に関する理論的・実証的研究
Project/Area Number |
13630072
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Research Institution | Hokkaido Tokai University |
Principal Investigator |
平木 隆之 北海道東海大学, 国際文化学部, 助教授 (00281288)
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Keywords | 特許権 / 農民の権利 / 科学的正当性 / WTO / カルタヘナ議定書 / フェールセーフ / 資源の所有・利用・管理 / コモンズ |
Research Abstract |
本研究はまず、カナダで生じたシュマイザー・モンサント事件を手がかりとして、遺伝子組換え作物を開発するバイオ多国籍企業と種子の貯蔵・利用・販売の権利が保証される農民の権利とのコンフリクトに着目した。同事件に対するカナダ連邦裁判所の判決では、特許権を農民の権利保護に優越するとして、特許権保護対象の遺伝子を含む種子を栽培した農民に対しバイオ多国籍企業に特許権侵害の賠償金を支払う決定が下された。本研究は、この判決に依拠して、遺伝子組換え植物を栽培しない農民でも特許対象の遺伝子を含む植物が自らの畑に自生した場合には特許権侵害で訴えられるリスクを負うことになったと指摘した。 本研究はまた、世界貿易機関(WTO)、国連環境計画(UNEP)、ヨーロッパ連合(EU)によるバイオテクノロジー貿易に対するリスク管理制度に関する分析を行った。バイオテクノロジーの自由貿易を重視するWTOも健康や環境に対して被害が及ぶ恐れのある場合には、遺伝子組換え産品の輸入規制を認めているが、それはあくまで潜在的な危険が科学的に立証された場合にのみ認められる措置である。2000年にUNEPが制定したバイオセーフティ議定書(カルタヘナ議定書)やEUのルールには「健康や生態系に対する悪影響を科学的に立証できない場合でも遺伝子組換え産品の輸入を禁止しうる」という予防原則が規定されている。しかし、この適用には科学的リスク評価が不可能であることを実証する必要があり、科学的リスク評価が失敗した場合に安全を確保するというフェールセーフとしてのリスク管理にすぎない。そこで本研究は、遺伝子組換え作物が非遺伝子組換え作物を締め出す傾向にある中で、大豆畑トラスト運動のように、リスク管理を超越し、安全な食糧を農民と市民が共同で管理する「コモンズ」がWTOや多国籍企業が推進するバイオグローバリズムへの対抗軸になりうるという結論を提示した。
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