Research Abstract |
本年度は,リアル・オプション・アプローチを用いて,ネットワーク産業における新規参入誘因と設備投資誘因の理論分析を行った.研究は「From Access to Bypass : A Real Options Approach」という論文に現在まとめられている.それは,契約理論研究会,2003年度日本経済学会秋季大会,応用地域学会研究発表大会で報告される予定である. 理論モデルは,Dixit&Pindyck(1994)の連続時間モデルを2企業のゲームに拡張したものである.ある需要地域に2企業が新規に参入する状況を考えており,初めに参入する企業を「先導者」,続いて参入する企業を「追随者」と命名する.先導者は参入する際,生産設備投資費用とネットワーク設備投資費用の二つの埋没的投資費用を負わねばならない.他方,追随者は,先導者と同様の2種類の埋没的投資費用を負うという選択の他に,ネットワーク設備投資費用を負わずに接続料金(あるいは接続供給料金)を支払うことにより,先導者のネットワーク設備を使用することができ,生産設備投資費用のみの埋没的投資費用を負えばよいことを仮定している.これがネットワーク産業の重要な特徴である.先導者には,独占的利潤を得る機会があるという長所はあるが,2種類の埋没的投資費用を必ず負わねばならないという短所がある.追随者には,独占的利潤は得られないが,「接続か,あるいはバイパス建設か」という選択の機会がある.このような長所と短所のトレードオフが,接続料金の水準にどのように影響され,ひいては参入誘因と(特にバイパス建設の)投資誘因にどのような効果を持つかが分析されている.不確実性,埋没的投資費用,先導者と追随者の役割が内生的に決定される点,および非協力ゲーム環境が,分析の鍵となる. モデル分析より次の結果が得られた.第1に,非協力ゲーム的な競争環境では,協力ゲーム的な競争環境よりも,先導者の参入誘因は強い.第2に,接続が許されていると,バイパス建設の投資誘因は弱くなる.第3に,接続料金は様々な効果を持ち,投資の影響に関しては多様な結果が得られることがわかった.
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