2001 Fiscal Year Annual Research Report
二十世紀スイスにおける政府・経済団体・市場間の調整機構とその変遷に関する研究
Project/Area Number |
13630091
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
黒澤 隆文 京都大学, 大学院・経済学研究科, 助教授 (30294507)
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Keywords | スイス / ライン資本主義 / コーポラティズム / 産業合理化 / 多元主義 / 戦間期 / 経済政策 / 直接民主主義 |
Research Abstract |
初年度においては,研究は主として文献の収集とその分析を内容としており,「ライン資本主義」概念の再検討を可能にするための歴史的事実の確認作業は未だ十分ではない。したがって研究主題の全体に関する見通しを示す段階ではないが,現時点で確認しえた事実は以下である。 1930年代から1940年代のスイスには,新しい形態の経済政策団体が生まれた。これは,戦間期の合理化と恐慌,政治的統合の危機への対応であった。財界の利害を体現したのは,頂上団体たるスイス商工業連盟,「戦略的」・「戦術的」諸圧力団体である。対する左派勢力は,1930年代には公式の政治機構への参入を果たしておらず,直接民主主義的手段が活動の中心であった。新時代を画したのは,「革新」概念である。これは,1930年代半ばから1940年代半ばの経済政策論争の鍵概念となった。革新は現存の秩序の否定と伝統的な秩序への回帰を意味するものであるが,その内容は保守的・復古主義的なものから,「進歩的」なものまで,論者によって多様であった。右派にあっては,革新はしばしばコーポラティブ的・権威主義的処方箋・極度なまでのカントン主権主義,反連邦主義に結びついていた。対するにフランス語圏にあっては,革新は国家権力の極度の制限を意味した。これは反連邦主義的主張とともに,スイスの革新運動の特質ともいえる。これら諸組織は,総じて社会主義・労働時間の短縮・失業保険・AHV等の,社会国家の基礎を敵視し,労働組合・社会民主主義政党とは対立的関係にあった。したがって,多元的でコーポラティズム的な利益代表システムと,それによる雇用者と被雇用者の部分的協働は,革新運動の帰結というよりはむしろその敵対物であった。
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