2003 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
13630094
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
田坂 敏雄 大阪市立大学, 大学院・創造都市研究科, 教授 (70122190)
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Keywords | 内帑局 / 王室財産管理事務所 / 土地所有権観念 / 地券交付事業 / 公地証書 / 王室用地 / 民商法典 / 公地収用 |
Research Abstract |
現代バンコクの都市問題を土地法制の点から見ると、都市計画法をはじめ土地利用規制が大きく立ち遅れ、かつ不十分であることが指摘される。たとえば、用途規制が打ち出されたのは90年代に入ってからであり、しかも除外規定によって「笊法」になっている。あるいは容積率規制も全国一律に1000%とされ、規制力がないに等しい。また土地税制についても相続税や譲与税は存在しないし、土地保有税も低率で、土地保有行動に対する規制力をほとんど持たない。このような土地利用規制の立ち後れは、土地所有権がきわめて強いことを物語っている。 このような土地私権の強さは、歴史的に見て何に起因するのか。本研究は、19世紀末から20世紀初頭の時代にまで遡り、タイ的土地所有権観念の淵源を探り9つつ、同時に『民商法典』が規定する賃貸借制度の解明を通じて所有権の性格について考察した。 もうひとつ、今日のバンコクの都市開発は、スラムの取り壊しや住民の強制立ち退きなどによって土地紛争を発生させている。これらの紛争の多くは王室と住民との間で生じている。なぜなら、王室の資産を管理する王室財産管理事務所がバンコク市内に800haもの土地を所有し、効率的な土地利用を目指して地域住民の立ち退きを計画しているからである。このような大規模な王室用地は、いつ、どのようにして集積されたのか。それは、王室財産管理事務所の前身、内帑局が設立された1890年前後からラーマ5世が死没する1910年頃までに集中的に集積された。その土地は、地券交付法発効後に王名義と内帑局名義で登記され私的所有権が設定されたが、1932年の立憲革命後、人民党政権によって3分割された。その3分割された資産のひとつである「王室財産」が王室財産管理事務所によって引き継がれ、今日に至っている。 以上のように、本研究は2つの問題意識から出発している。第1は、都市空間の計画的な形成を妨げている土地私権の強さの秘密を歴史的に探ることであり、第2は王室による巨大な土地領有の歴史的起源を明らかにすることである。いずれの問題も、今日のバンコクの乱開発の淵源を探り出すうえで重要であり、本研究は、タイ公文書館が所蔵する第1次史料を渉猟し、それを縦横に駆使することによってこれらの問題に迫ろうとした。
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