2001 Fiscal Year Annual Research Report
常温常圧から超臨界に及ぶ溶媒和のエネルギー表示に基づく理論的研究
Project/Area Number |
13640509
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
松林 伸幸 京都大学, 化学研究所, 助手 (20281107)
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Keywords | エネルギー表示 / 化学ポテンシャル / 溶液理論 / 計算機シミュレーション / 溶質-溶媒相互作用 / 水溶液 / 超臨界水 / 分布関数 |
Research Abstract |
溶液内過程を記述する最も重要な量は、その過程に対応する自由エネルギー(変化)である。特に、ある過程の始状態と終状態にある化学種の化学ポテンシャルが分かれば、その過程の自由エネルギー変化は分かるので、溶液内にある溶質の溶媒和自由エネルギー(化学ポテンシャル)を評価する方法の確立が、溶液の統計力学の重要な課題である。この課題を、様々な種類の溶質について、超臨界状態を含む広い温度・密度範囲で解決していくために、溶質-溶媒相互作用エネルギーを独立変数とする分布関数で、溶質の化学ポテンシャルを表す方法を開発することが、本研究の目的である。この方法をエネルギー表示の方法と呼ぶ。本年度は、エネルギー表示における密度汎関数理論を確立し、化学ポテンシャルに対する近似的な汎関数を構築した。汎関数の構築では、溶質-溶媒相互作用の斥力部分ではパーカス-イェビック様近似、引力領域では超網状鎖様近似を用いた。化学ポテンシャルの汎関数は、純溶媒における1次および2次のエネルギー分布関数および溶液における1次のエネルギー分布関数でもって表わされている。これらの分布関数を計算機シミュレーションから得ることで、化学ポテンシャルの近似的な見積もりを行った。典型的な無極性・極性・イオン性の溶質について、常温常圧から超臨界までの広い温度・圧力領域での化学ポテンシャルの近似計算および対応する厳密な計算を行った結果、単一の汎関数で良い近似値が得られることが明らかになった。つまり、溶質の種類・熱力学状態によらない化学ポテンシャルの近似手法を、定式化できた。さらに、エネルギー表示の方法を分子内自由度を持つ系に対しても拡張した。分子の柔軟性が重要になる蛋白質などの系についての拡張は自明であり、また、分子内の電子的分極を考慮する必要のある系についても考察を加えた。
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Research Products
(6 results)
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[Publications] M.Nakahara, N.Matubayasi, C.Wakai, Y.Tsujino: "Structure and dynamics of water : from ambient to supercritical"Journal of Molecular Liquids. 90. 75-83 (2001)
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[Publications] N.Matubayasi, N.Nakao, M.Nakahara: "Structural study of supercritical water. III. Rotational dynamics"Journal of Chemical Physics. 114. 4107-4115 (2001)
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[Publications] T.Yamaguchi, N.Matubayasi, M.Nakahara: "A mode-coupling approach to the attractive interaction effect on the solute diffusion in liquids"Journal of Chemical Physics. 115. 422-432 (2001)
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[Publications] M.Kubo, R.M.Levy, P.J.Rossky, N.Matubayasi, M.Nakahara: "Chloride Ion Hydration and Diffusion in Supercritical Water Using Polarizable Water Model"Journal of Physical Chemistry A. (印刷中). (2002)
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[Publications] 松林 伸幸, 若井 千尋, 中原 勝: "「超臨界流体のすべて」NMRによる超臨界流体の構造解析"テクノシステム(印刷中). (2002)
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[Publications] 若井 千尋, 松林 伸幸, 中原 勝: "「新しい高圧力の科学」液体・溶液物性研究への応用"講談社(印刷中). (2002)