Research Abstract |
雄コオロギにおける交尾行動の発現は,最終腹部神経節(TAG)にある生殖中枢のモード(交尾モードと交尾不応モード)に従っており,交尾不応モードでは,脳を介して求愛・交尾のパターン発生器は抑制されることが明らかとなっている(Matsumoto and Sakai 2000)。一方,本研究では,交尾モード下においては,脳は抑制をかけておらず,逆に常時,賦活性の影響を与えていることを明らかにした。雄のフタホシコオロギに,雌のモデルを用いて背部へ接触刺激を与え,これに対する交尾反応の強さをスラスト運動の速さで測定した。インタクトの個体では,雄の興奮状態が変わっても反応性には大きな変化はなかったが,脳を除去すると10分で反応性は約50%低下した。これは,脳が交尾パターン発生器に対し,常時一定の興奮性の入力を与えていることを示す証拠である。そこで,除脳雄の体内にオクトパミン,サイクリックAMP,シネフィリン,IBMXを投与(10^<-2>M,50ul)与したところ,いずれによっても反応性は,濃度依存的に除脳前のレベルにまで回復した。一方,セロトニン,ノルアドレナリン,ドーパミンは効果がなかった。また,除脳雄の頚部縦連合を電気刺激したところ,上記薬物投与の場合と同様,促通効果が得られた。オクトパミンの拮抗剤フェントラミンでは,電気刺激の効果は相殺された。最後に,コオロギの後ろ足にピンチング刺激を与えて逃避歩行を誘発し,その速度と距離を測ったところ,オクトパミン投与群とコントロール群の間で有意な差は見られなかった。これらにより,交尾期の雄では,脳からオクトパミンを介する賦活系が働いており,求愛と交尾活動を支えていることが示唆された。本研究結果は,Matsumoto and Sakai(Zool Sci 2001)の論文により報告した。
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