Research Abstract |
今年度は,当初の申請段階では,欧州の標本庫で基準標本を探索する予定であったが,大まかな基準標本は見ることができたことと,当該博物館におけるコケ植物担当者が死去したことにより,計画を変更した.そして,葉状体の表面にベルカがある種,R.crassa,R.hydra,R.grollei,R.asperaなどの研究と東南アジア産のAneuraceaeの種とオーストラリア産の種を比較するために,タスマニアにおいて補足的に調査を行った.これは,オーストラリアにおいて,ベルカがある種が多く見出されているために,材料の入手が容易であり,東南アジア産の種とオーストラリア産の種との比較ができ,東南アジア産の種概念を構築し易いと考えたからである.ベルカがある種においては,全ての種において,表皮細胞に油体が見られ,内部細胞とほとんど変わらないという特徴が見出された.また,多くはBotryoidalである点も特異だる.ベルカがあることで乾燥に対してより強い耐性がある可能性が示唆された.これらの結果とこれまでの結果を踏まえると,基本的には全ての細胞に多数の油体が含まれるものから,各細胞に含まれる油体の数が減り,同時に表皮や最内部の細胞に油体を含まない体制へと進化したのではないか、と推論された. また,オーストラリアにはAneuraceaeの近縁科である単型科のVandiemeniaがあるが,この科については,その独立性が疑われていたので,その葉状体と油体を検討することとした.その結果,この科には油体がないことが明らかになり,また,新たに発見された雌の生殖器官はAneuraceaeとは明らかに異なり,Metzgeriaceaeの生殖器官に類似していることも明らかになった.これらの知見から本科はMetzgeriaceaeの亜科にすべきであるとの結論に至った.
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