Research Abstract |
1.対照群の調査実施と調査票のマークシート化 対照群については,平成13年9〜10月に東北地方の県庁所在地に在住する小学5年生から高校3年生までの児童・生徒2421名とその父親,母親を対象とした調査を行った。この調査の成果から,養育者用の共感経験尺度改訂版,アレキシサイミア尺度であるThe Japanese Versions of The 20-Item Toronto Alexithymia Scale-20(日本版)および児童用共感経験尺度改訂版について原著者から提供,許諾を得てマークシート化し,今後の継続調査の準備を行った。 2.対照群における子どもの共感経験と親の共感経験および感情の言語化の世代間伝播の検討 今回の調査では前項の尺度の他に,Parental Bonding Instrument日本版を用いて親の被養育経験も測定した。有効回答は,児童・生徒518名,父親464名,母親501名から得られた。 (1)親の共感経験と被養育経験の関連:父親では,父親から過保護的に育てられたという思いが弱く,母親から過保護的に育てられたという思いが弱いと共感経験が少なかった。また,母親では,父親から養護的に育てられた,母親から養護的に育てられた,という思いが強いと共感経験は少なかった。親の他者への共感経験と自身の被養育経験は関連があることがわかった。(2)親の感情の言語化と被養育経験の関連:父親,母親ともに,父親から養護的に育てられたという思いが強く,過保護的に育てられたという思いが弱いと,また母親から養護的に育てられたという思いが強く,過保護的に育てられたという思いが弱いと感情の言語化がより適切であった。親の感情の言語化と自身の被養育経験は関連があることが明らかになった。(3)子どもの共感経験と親の共感経験の関連:小学生では,父親の共感経験が多いほど子どもがもつ父親への共感経験は多いが,母親の共感経験と母親への共感経験には関連がみられなかった。中学生,高校生で親子間に関連がなかった。(4)子どもの共感経験と親の感情の言語化の関係:小学生男子では,父親の感情の言語化がより適切であるほど,子どもがもつ父親への共感経験は少ないが,女子では関連がみられなかった。一方,中学生男子では,父親の感情の言語化がより適切になると,子どもがもつ父親への共感経験は多いが,女子では関連がなかった。また,高校生では親子間の関連がなかった。 以上の結果から,子どもの共感経験は,母親と同等かそれ以上に父親の影響を強く受けていることが明らかになり,またその背景には養育態度の世代間伝播があることが判明した。
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