Research Abstract |
運動強度と姿勢(還流圧)の影響による筋血流量の変化を検討するために,椅座位と仰臥位姿勢で改良した自転車エルゴメータによる両脚の膝伸展運動を3つの運動強度で行った。被験者は健康な成人男女6名であった。各被験者は,3分間の安静の後,6分間の運動を行い,その後4分間安静状態を保った。運動強度は,無酸素性作業閾値(AT)の40%と80%,ATと疲労性作業閾値(CP)の中間の強度の3段階に設定し,運動の頻度は60回/分とした。大腿動脈血流速度は超音波ドップラー法により,また大腿動脈横断面積は超音波画像から計測し,両者の積によって,大腿部動脈血流量を算出した。同時に呼気ガス(breath-by-breath),心拍数(胸部双極誘導),と血圧(心臓および大腿起始部の高さの2個所)の測定を,安静,運動,回復期を通じて連続的に行った。 椅座位膝伸展運動時の心臓の高さの血圧は椅座位と仰臥位で有意な差は無かったが,大腿起始部の高さにおける血圧は,すべての運動強度で仰臥位に比較して有意に高かった。このことから,姿勢の違いによる,大腿起始部の還流圧には差が生じていたことが確認された。しかし,そのときの,各運動強度における定常状態での大腿動脈血流量および酸素摂取量は,椅座位と仰臥位で有意な差は見られなかった。 仰臥位および椅座位の両条件下において,大腿動脈血流量は酸素摂取量と同様に運動強度に比例して増大した。このことにより,運動強度に依存して筋の張力は上昇し,筋内圧が上昇していくにも関わらず,酸素摂取量の増加と同様に大腿動脈血流量は強度に依存して増大することが確認された。さらに,仰臥位および椅座位における,運動中の大腿起始部の高さにおける血圧は,AT以下の運動強度では,わずかな増加しか示さなかったものの,ATの運動強度を越えると急峻に増大していた。これらのことは,運動強度が,無酸素性作業閾値を上回るとき,中心循環圧の上昇により,筋血流量を増加させ,それ以下の運動強度においては,血圧よりむしろ,血流の流れやすさ(コンダクタンス)が血流量を維持していると推察された。
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