Research Abstract |
【目的】筋張力(筋内圧)の影響による筋血流量の変化を検討するために,運動時の「発揮パワー」,「筋収縮と弛緩の時間比率」,および「収縮の頻度」を固定し,「筋張力」のみをかえた場合,ヒトの膝伸展運動中における運動肢の血流量にどのような変化がおこるかを検討した。 【方法】特に運動習慣のない健康な成人6名(21-42歳)が実験に参加した。各被験者は,ステップ負荷による片脚膝伸展運動(安静2分,運動5分,回復2分)を3つの異なる運動強度で,仰臥位にて行った。実験条件として,足関節の移動距離を10cm(S試行)と20cm(L試行)に設定し,筋の発揮張力は,L試行がS試行の1/2になるようにして,パワーを同一に設定した。筋収縮および筋弛緩時間は,S試行,L試行とも同一になるようにメトロノームを用いて指示した。運動強度は,筋収縮時の発揮筋出力が,最大筋力の5%〜30%の範囲に設定し,収縮の頻度は40回毎分とした。大腿動脈血流速度を,超音波ドップラー法により計測し,同時に'心拍数と大腿起始部の高さにおける血圧測定を測定した。血流量の算出には,超音波映像から得られた大腿動脈径を用いて算出した。血流量の評価には,運動終了前30秒間の平均血流量(ssBF)を算出し用いた。 【結果】S試行において,筋の発揮張力をL試行の2倍の条件に設定しても,発揮パワーが同一であれば,定常状態の平均血流量に有意な差は認められなかった。すなわち,S試行では,筋の発揮張力がL試行より大きく,筋内の血管抵抗が高いにもかかわらず,大腿動脈の血流量は維持されていたことになる。また,このときの大腿起始部の高さに相当する血圧,およびコンダクタンスの値は,S試行とL試行の間に有意な差は認められなかった。また,定常状態の平均血流量は発揮パワーの増大に伴って増加した。以上のことから,動的な膝伸展運動中の定常状態の平均血流量には,筋張力が高い条件下でも,発揮パワーがより強い規定要因になっていることが示唆される。また,運動終了時に観察される急激な血流量増大(運動後充血血流量)においてもS試行とL試行間に有意な差はみられず,運動中の筋張力の大小に関わらず,運動後の血流量の増大は同程度におこることが明らかになった。
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