2001 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
13710134
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Research Category |
Grant-in-Aid for Encouragement of Young Scientists (A)
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Research Institution | Soai University |
Principal Investigator |
大山 小夜 相愛大学, 人文学部, 講師 (10330333)
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Keywords | 多重債務 / 破産 / 紛争 / 消費者取引 / インタビュー / 参与観察 / 自助グループ / 生活史 |
Research Abstract |
(1)多重債務問題は、これまで、法律家の世界においては、借り手ー貸し手間に生じた債務不履行をめぐる「法的紛争」と認識されており、借り手が法律を活用して貸し手との契約関係を清算すること(いわゆる「債務整理」)によって解決・終結するものと考えられてきた。しかし、現実には、借り手には債務整理後も、生活の再建や挫折感への適応、周囲からの反作用に抗する自尊心の確保など、様々な課題が残されているが、こうした点が実証的に検討されたことはこれまでなかった。そこで、本研究では、多重債務によって破産を申し立てたある人物について、公的記録(破産申立書)を検討するとともに、当事者へのインタビューと参与観察を実施した。生活・経済状況と主観的経験を詳細にたどることによって、この当事者が次の三つの段階を経験していることが明らかになる。すなわち、(1)借入方法を学習し、貸し手を、金銭問題の解決にかかわる援助者として認識していく段階〔「友人」の発見〕。(2)好転しない経済状況を背景に、周囲からの社会的承認を確保し続けようとするなかで、業者との関係が親密・深刻化し、頻繁な回収を受ける〔招かれざる客〕。(3)回収への恐怖から日常生活の遂行が困難になるが、第三者=自助グループとの出会いを契機に社会的・情報的資源を獲得。貸し手を、借入にともなう「恩義」の対象者から、関係を清算すべき交渉相手へと認識転換する。また、同様の境遇者との相互作用を経て、自らの経験を相対化し、生活の再構築を志向していく〔「友人」から「敵」へ〕。 以上の考察から、当該問題の真の解決に向けては、債務整理だけでなく、従来の人間関係に対する当事者自身の認識転換が欠かせないこと、また、そのためには、外部社会からの様々な資源動員を要するということが明らかになった。しかしながら、他方で、このような借り手ー貸し手関係は、しばしば閉鎖的な状況のなかで悪化しやすいことも観察された。こうしたことから、同種の消費者取引においては、外部社会に対して透明性の確保がとりわけ求められるとの示唆を得た。(既発表論文「多重債務者の生活史-消費者取引における紛争解決の一事例」) そのほか、本年度は、(2)多重債務者救済組織を対象とした質問紙調査、(3)主要業者による有価証券報告書や関連団体による各種報告書等の収集を実施し、現在、考察に取りかかっている。
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Research Products
(1 results)