Research Abstract |
本年度は,まず労働契約法制について,アメリカ,イギリスといったアングロサクソン系の法制とドイツ,フランス,イタリアを初めとする欧州大陸法系諸国の法制とに分けて情報を収集し,分析を行った。なかでも,分析の中心としたのは,解雇法制についてである。というのは,労働契約法制の内容は,解雇法制の内容に大いに依存するものだからである。現に,解雇法制については,アメリカのような「随意雇用(employment at will)」の国と欧州諸国(イギリスも含む)におけるような解雇に関する規制がある国があり,それぞれの国において,労働契約法制のあり方もかなり異なっていることが明かとなった。具体的に述べると,市場の変化などに応じて企業が労働条件を弾力的に変更しようとする場合,解雇規制がない国では,解雇による対処がなされやすいのに対して,解雇規制がある国では,このような方法を採用することができず,労働組合,従業員代表との合意を得ながら労働条件の不利益変更をしたり,個別的労働条件の変更の場合には労働者の黙示の承諾といったテクニックを使いながら実質的に妥当な処理が模索されている。 また,このような比較法研究と並行して,日本法上の解雇法制についても分析を行った。その分析の結果,解雇法制のあり方については,労働市場の構造に規定されており,基本的には雇用政策と密接な関連性を有しているものなので,政策のダイナミックな展開と平仄をあわせるために,ある程度の弾力性を維持しておく必要があり,そのような観点から,現行の解雇権濫用法理は判例法理であることのメリットがあるという結論に至った。他方で,解雇制限の内容は,できるだけ労使自治を重視した処理をすべきという観点から,労使自治と労働契約法制との関係の研究を継続中であり,比較法的成果をとりいれたその成果の一部は,平成14年度5月に開催されるの日本労働法学会で報告する予定である。
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