Research Abstract |
本年度はまず,日本本土の第四紀閉鎖的内湾に生息した貝形虫群集を把握するための試料採取,群集調査を行い,さらに,堆積環境を復元するために,堆積物の化学的分析を行った.まず,九州については,島原半島に分布する下部更新統北有馬層を対象に調査を行い,試料を採取した.結果として,泥質堆積物から産出する種は主に日本全国の内湾で優占するBicornucythere bisanensisのA型であるが,中期更新世以降の日本ではおそらく生息しなかったであろうSpinileberis sp.も付随して多産することが認められ,前期更新世と中期更新世以降の日本では,内湾群集に違いが見られることが示唆された.次に,静岡県浜名湖東岸に分布し,代表的な中期更新世の地層である浜松層佐浜泥部層(酸素同位体ステージ7に対比)を対象に試料を採取し,まず,貝形虫群集の調査を行った.結果として80試料から18種の貝形虫化石を抽出同定した.これらはほとんど閉鎖的な内湾泥底種で,多様性が極めて低いことがわかった.また,産出種の中では,最終氷期に日本本土から消滅したNeomonoceratina delicataと現在大阪湾以西の西日本の内湾に優占するBicornucythere bisanensis "from M"が多産することがわかり,完新世の群集との違いが明瞭になった.さらに,採取した試料の粘土混濁水を作成し,電気伝導度およびイオンクロマトを用いて陰イオンの分析を行った.結果として,含まれている陰イオンはほとんど硫酸イオンであり,この値は佐浜泥部層の中部層準で高く,下部,上部で低いことがわかった.貝形虫化石群集の変化を考慮に入れると,この層準で最も水深が深くなったこともわかった.他には,大阪湾周辺地域,対馬の三根湾地域での完新統および,東北日本の鮮新-更新統から産する貝形虫化石群集の調査を行った.
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