Research Abstract |
デスモスチルス目では,具体的な食物が明らかになっていない.現在有力視されているのは植物食,特に海草食である.本研究では,デスモスチルス目の食性について,顎運動,現生哺乳類との比較,当時の古環境などから推定を試みた. 1.顎運動の復元は,頭蓋の形態およびmicrowearから検討した. ・頭蓋の形態から:デスモスチルス目のAshoroa laticosta, Behemotops proteus, B. Katsuiei, Paleoparadoxia tabatai, Desmostylus japonicus, D. hesperusについて行い,Ashoroa, Behemotops, P. tabatai, D. japonicusでは側頭筋,翼突筋の発達が推定され,顎運動は側方運動が主だったと復元された.D. hesperusでは咬筋の発達が推定され,かみしめる運動によって生じる前後の運動があったと復元された. ・microwearから:観察は,A. laticosta, B. katsuiei, P. tabatai, D. japonicus, D. hesperusについて行った.結果は頭蓋の形態から推定された顎運動に調和する傾向がみられた.またscratchが多いことから,植物食の可能性が高いと思われる. 2.現生の哺乳類との比較では,系統的に近縁な海牛類,その他の植物食の哺乳類では,顎運動は側方運動が卓越し,束柱類のおもな種類と同様な結果であった.しかし,D. hesperusで推定された顎運動と調和的な現生哺乳類は現時点では確認できていない. 3.デスモスチルス目の生息した当時の古環境は,現在よりも温暖で北海道でも陸上の気候が温帯性気候と推定されているが(五十嵐ほか,2000),当時の海洋の植生に関するデータは得られていない. 4.本研究ではデスモスチルス目の具体的な食物を推定できなかった.ただし,D. hesperusはその顎運動が独特であると考えられ,食物も現生の哺乳類では利用が少ないものを対象としている可能性が示唆された. なお研究の成果の一部は,日本古生物学会2001年ミレニアムシンポジウム,日本古生物学会第151回例会(於鹿児島大学)にて発表した.
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