Research Abstract |
今年度は,これまでの研究成果をもとに,ポリスチレン微粒子のような固体ではなく,微小液滴の光駆動を試みた.実験で使用した液滴は原始細胞のモデルとされるコアセルベートである.2.0%のアラビアゴム水溶液と2.5%のゼラチン水溶液を混合し,これに0.2〜1.0%の塩酸を加えた.その後50%のグリセリン水溶液を加えると,球状のコアセルベート液滴が自己組織的に形成された.このコアセルベートは,コロイド粒子が集合して膜に包まれた液滴状のもので,その粒径は用いる塩酸の濃度によって制御することができる.作成したコアセルベート液滴の粒径は,2〜45ミクロン程度であった. まず,作成したコアセルベート液滴を高屈折率プリズム表面に滴下し,これにコリメートしたNd : YAGレーザーの第2高調波(波長532nm)を臨界角以上の入射角で入射した.また微小液滴の様子は,倍率20倍の顕微鏡光学系を用いてプリズム上方から観察した.実験の結果,レーザー光を入射するとレーザーの照射部の液滴のみが選択的に駆動された.このときの液滴の駆動方向は,レーザー光の伝搬方向と同じであった.この結果はポリスチレン微粒子を用いた実験と同じであった.またその駆動速度は,入射レーザー光の強度が強いほど,また液滴の粒径が小さいほど速く,最大で26μm/秒であった. 次に,作成したコアセルベートを色素で染色し,レーザー光の波長に対して吸収を持たせた液滴の光駆動実験を行った.用いた色素は,エオシンとメチレンブルーで,両者ともコアセルベート液滴を選択的に染色できる色素である.またエオシンは,波長532nmの緑色レーザー光によって蛍光励起され,オレンジの蛍光を発する蛍光色素である. エオシンで染色した実験の結果,レーザー光を入射させると,染色された微小液滴がオレンジの蛍光を発しながら光駆動されることを確認した.メチレンブルーで染色した液滴では,その染色濃度を変化させ,濃度と駆動速度との関係を求めた.その結果,メチレンブルーの濃度が高くなるにつれて,駆動される速度が遅くなるという結果を得た.さらに染色濃度の異なる微粒子を混合させ,それを光駆動すると,駆動速度の違いから染色濃度の違いに応じて液滴を選別することができた.これらの実験結果より,本研究で開発した技術を利用すれば,ガン細胞と正常細胞のように吸収率の異なる微小物体を,光放射圧を用いて非接触で選別する光セルソータが実現可能であることを確認した.
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