Research Abstract |
大出力のパルスレーザー光を金属に照射すれば,その表面にナノ組織超伝導窒化物を形成できる.Ti, V, Zr, Nb各金属での窒化物形成能の照射強度依存性をみると,周期表との対応関係が認められる。そこで各金属種の電子状態と窒化物形成能との関連を探るため,レーザー加工現象を分子軌道論の立場から検討した.原子状金属と原子状窒素からなるクラスターを想定して,高密度プラズマ状態のうち,特に高密度状態の化学的環境を考察するため,原子間距離を短くしたときの化学結合性の変化をDV-Xα分子軌道法により調べた.金属-金属間,金属-窒素間の共有結合性は,原子間距離が短くなると減少する方向に転じるが,その変化の仕方は各金属種ごとに異なる.すなわち原子間距離が近づくと,遷移元素間の化学結合性の差異がより大きくなる.また,電荷の偏りという点では,どの金属種でも原子間距離が短くなるとイオン結合的になるが,周期表の横の元素間を比較すると,より左側に位置するTiとZrでその傾向がより顕著となる.レーザー照射では,VとNbでは,V_2NとNb_2Nを経てからNaCl型のVNとNbNが形成され,一方,TiとZrでは,最初からNaCl型のTiNとZrNが形成される傾向がある.高密度状態では,TiとZrで金属と窒素の電荷の偏りがより強く現れるため,結果的にNaCl型構造となる傾向が強いことが考えられる.このように,レーザー照射による金属窒化物形成という極限的材料プロセスであっても,それを分子軌道論的立場で検討することが,現時点でも十分に可能でありまた有用である.現在,分子軌道法は電子状態計算の一手法という位置付けであるが,その基本思想は,物質は原子から成る,という単純明快なものであり,もっと多くの事象を分子軌道論的立場で捉え直すことが可能であると考えられる.
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