2002 Fiscal Year Annual Research Report
暖温帯森林流域における窒素飽和の生起過程とそれに及ぼす水文過程の影響
Project/Area Number |
13760117
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
大手 信人 京都大学, 農学研究科, 助教授 (10233199)
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Keywords | 森林流域 / 窒素飽和 / 無機態窒素収支 / 脱窒 / N_2O / マツ枯れ / 地下水位変動 |
Research Abstract |
森林流域からの窒素流出特性と,そのの制御要因としての水文過程に焦点を当て,滋賀県南部の桐生試験地において観測と,過去のデータの解析に加え,流域レベルの窒素ダイナミクスの中で,未知なプロセスが多い脱窒の実態を把握するために.土壌空気と地下水溶存態のN_2O濃度のモニタリングを行った.この結果以下のことが明らかになった. 1)渓流水のNO_3^-濃度は1993年までの濃度レベルが概ね0.03mmo1_cL^<-1>以下であったのに対し,1994年から1997年にかけて上昇し,それ以後徐々に低下していることがわかった.地下水の濃度も1994年以降それ以前の数倍に上昇していた.2002年現在,依然として下流端近傍の浅層地下水中(〜100cm)のNO_3^-濃度の平均値は0.1mmol_cL^<-1>と高いが,この濃度は,深層ほど低下し,400cm深では0.1mmol_cL^<-1>を下回っていた.これと溶存N_2O濃度の新戸分布はよく対応しており,地下水体の比較的浅い部分で脱窒が活発であることが明らかになった. 2)これまでの,桐生試験地マツ沢流域における無機態窒素に関する流域レベルの収支解析から,年間3kgha^<-1>yr^<-1>の窒素が脱窒によって大気に放出されることが推定された. 3)強力な温室効果ガスであるN_2Oは湧水点近傍の湿潤なエリアから集中して発生しており,地下水体中での脱窒で生じたN_2Oは不飽和土壌中へはあまり拡散せず,大気に開放されて多くが揮散することが明らかになった.この部分でのN2Oの放出速度は地温と高い相関が見られ,夏季に高く冬季に減少した. 4)N_2Oの発生は,降雨イベント時に,一時的に飽和した土層中でも観察され,脱窒が,飽和条件が整えば比較的瞬時に生じる可能性が示唆された. 以上の結果から,水文条件に強く影響された脱窒の空間分布と,季節変動が把握できた.
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[Publications] Ohte et al.: "Episodic increases in nitrate concentrations in streamwater due to the partial dieback of a pine forest in Japan : runoff generation processes control seasonality"Hydrological Processes. 17. 237-249 (2003)
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[Publications] 大手信人: "森林流域からのNO_3流出:流出の季節性から読み取れる情報"水利科学. 268. 40-53 (2002)
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[Publications] 大手信人, 徳地直子: "森林生態系の物質循環を理解するための流域研究に向けて-流出窒素の動態が示唆すること-"日本生態学会誌. 52. 131-137 (2002)