2002 Fiscal Year Annual Research Report
脳低温療法施行患者の神経内分泌免疫学からみた宿主免疫応答と易感染性の基礎病態
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13770860
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
雅楽川 聡 日本大学, 医学部, 助手 (70328730)
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Keywords | 重症脳損傷 / 脳低温療法 / 感染症 / 神経内分泌 / アルギニン / 栄養学的免疫賦活 |
Research Abstract |
【目的】脳低温療法施行患者の易感染性に対する栄養学的免疫賦活効果を神経・内分泌・免疫学的見地から検討する。【対象・患者管理法】対象は来院時のGCS8点以下の重症脳損傷患者で脳低温療法を導入した12症例(アルギニン投与群:N=6、非投与群:N=6)。水冷式ブランケットによる全身冷却法にて内頚静脈血血液温度を32-33℃に管理した。冷却導入時に経鼻胃管より胃洗浄による胃内残渣物の除去、腸蠕動運動促進剤の経静脈投与、イレウス管挿入による消化管内圧の減圧および蠕動運動促進を行った。また可能な限り早期経管栄養を開始した。アルギニン投与群は、復温時より塩酸アルギニン(30g/日)の経静脈的投与を開始し、復温終了時まで続行した。【検索内容】(1)アルギニン投与開始前、投与24時間後、投与48時間後、投与終了時の4ポイントについて、以下の項目を検索した。(A)神経・内分泌系;成長ホルモン(GH)、プロラクチン(PRL)(B)免疫系;白血球分画、リンパ球幼若化試験(PHA)、CDサブセット(CD3,CD4,CD8)、炎症性サイトカイン(IL-6,IL-8)、NO代謝産物(NOx ; NO2+NO3)(2)重症敗血症の有無、28日後の生存率【結果・考察】アルギニン投与前(冷却期)のGH、PRLはアルギニン投与群、非投与群に有意差はなかった。しかし復温終了時にはGH、PRLともアルギニン投与群で有意に上昇した(GH:平均6.8ng/ml、2.4ng/ml、PRL:平均4.2ng/ml、1.3ng/ml、いずれもP<0.05)。同様に末梢血リンパ球数は復温終了時にアルギニン投与群で有意な上昇を認めた(P<0.05)。また復温終了時には投与群、非投与群のPHA(4856cpm、2458cpm)、CD3(79%、64%)、CD4(57%、43%)も投与群で有意な上昇を認めた(P<0.05)。NOx、IL-6、IL-8はアルギニン投与前から復温終了時にかけて両群とも増加したが、両群間に有意差を認めなかった。しかしCRPは復温終了時にアルギニン投与群で有意な低下を認めた。細菌培養陽性率や敗血症生ショック発症率に有意差はなかった。またアルギニン投与による28日生存率の改善は認めなかった。復温時のアルギニン投与はGH、PRLの分泌促進を介したhelper T cellのproliferationを促し、脳低温療法中の易感染性に対する宿主免疫応答賦活作用が期待できる。またアルギニン投与に伴うNO toxicityは認めず、安全な免疫賦活が可能である。しかし細菌培養陽性率や敗血症生ショック罹患率、28日生存率に統計学的有意差はなく、アルギニン投与を主軸とする総合的感染症対策のさらなる検討が必要である。【結語】復温開始に伴うアルギニン投与により、NO toxicityに懸念することなく、神経内分泌系を介したhelper T cellの賦活が期待できる。ただしアルギニン補充単独では感染症罹患率の改善は得られず、アルギニン投与を主軸とする総合的感染症対策のさらなる検討を要する。
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