Research Abstract |
44〜79歳の男女36名(平均年齢65.7±7.1歳)を対象に,持久性運動と抵抗性運動の継続が,動脈伸展性に及ぼす効果について検討した。動脈伸展性の評価には,大動脈脈波速度指数(APWVI)と動脈壁血管開口伝播速度(OV)を用い,安静時の血圧(SBP, DBP)および心拍数(HR)の測定も行った。また,トレーニング前後に自転車エルゴメーターを用いて推定最大酸素摂取量(VO2max)を測定した。メディカルチェックの結果,動脈硬化性疾患(高血圧,高脂血症,糖尿病など)を持つ者が17名含まれていた。対象者は,個別に負荷を与えて,持久性トレーニング(エアロバイク,ステップエクササイズなど)と抵抗性トレーニング(ダンベル,ウェイトトレーニングマシーンなど)を1回約90分,週2回の頻度で6ヶ月間継続した。 6ヶ月間におけるトレーニングの平均回数は,男性45.0±10.7回(Mean±SD),女性44.0±12.0回であった。トレーニング後,男女ともSBPの有意な低下が見られた(男性140.0±5.6mmHg→123.4±3.1mmHg;女性126.2±4.1mmHg→117.4±3.2mmHg, Mean±SE, P<0.01)。一方,DBPは男性のみ有意な低下が見られた(83.9±2.2mmHg→77.7±1.3mmHg, P<0.05)。VO2maxは男女とも上昇したが有意ではなかった。(男性2207.5±105.1ml→2330.8±107.5ml;女性1517.5±51.4ml→1574.0±47.9ml, Mean±SE)。APWVIおよびOVは平均値では有意差は認められないものの,女性では改善する傾向が示された(男性:APWVI8.6±0.3m/s→8.4±0.2m/s, OV0.50±0.04m/s→0.48±0.04m/s;女性:APWVI7.9±0.2m/s→7.7±0.2m/s, OV0.48±0.03m/s→0.54±0.03m/s, Mean±SE)。 APWVIおよびOVは,加齢および動脈硬化性疾患の影響を強く受けるが,個別に観察すると,男性にも女性にも両者の改善例が認められた。動脈壁の弾性率は,主として中膜を構成する線維蛋白によって規定されるが,生体内では中膜平滑筋のトーヌスもまた弾性率の規定因子である。したがって,改善例において短期間に生じた動脈伸展性の変化は,運動トレーニングにより血管のトーヌスが低下したことに起因する可能性が考えられた。 今後は,対象者を増やし,トレーニング期間を長くすることにおいて,中高齢者の加齢に伴う動脈伸展性の低下を比較的低強度の運動が抑制できるか否かを検討して行く必要がある。
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