Research Abstract |
本研究は,音楽と絵画を結びつける教材開発のための基盤研究として位置づけるものである。芸術教育に属する一試論であり,厳密な比較美学や芸術史学とは一線を画する。それぞれ独立した形に編まれる音楽史と絵画史とを何か或主題をもって結びつけられないか,なる問が,本研究の第一の動機であり,それを教育の場に生かせないか,なる問が,第二の動機であった。本年度の研究としては,「印象派期における音楽と絵画の相関(1)-ドビュッシーとモネの言説に基づく考察-」をまとめた。研究の目的は,印象派期における音楽家と画家の芸術観における何らかの共通点,あるいは相互関係を,主として彼らの言説に基づき,明らかにする点にあった。各芸術家の遺した書簡,証言および文献等を個別に細かくリサーチし,その芸術観・思想を明らかにし,そこに何らかの共通性,関連性を探った。その結果,多くの一致点を見ることができた。明確な主張でなく陰翳の喚起暗示による新しい表現手法を示唆するヴェルレーヌの「詩法(Art po・tique)」は,ターナーに繋がり,ホイッスラーの擬抽象(クワシ=アブストラクション)の作風と関わり,またモネの取り組む,風と水,霧の類,光の移ろひの絵,不確定で流動的な,捉え所なき領域の表現化と重なる。そのモティーフは同時にドビュッシーのそれであった。また,記憶喚起力の強さはドビュッシーとモネの共通項である。ドビュッシーがピアノ曲に付した指示,「ぼかして」「虹色に輝く霧のように」も,押し並べてモネ的な語彙であり,両表現の同質性を思わざるをえない。作品の終わりなき感じも似通う。2人は伝統的理論の枠内に留まりきれず,前代未聞の道を選ぶ点でも共通する。ドビュッシーは機能和声を否定し,モネは黒の絵具と輪郭,晩期は形象を捨てた。既成概念を越える価値観の膨らみは,極東への関心も培った。共に自然を範に,奇蹟的な眼と耳で,自ら感じ表わすことは,2人に共通の大切な姿勢である。
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