2001 Fiscal Year Annual Research Report
初期言語発達とクレオールの分析に基づく言語進化の言語学的研究-言語の生物学的研究の基礎を形成するための予備的研究として-
Project/Area Number |
13871060
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Research Category |
Grant-in-Aid for Exploratory Research
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
上田 雅信 北海道大学, 言語文化部, 教授 (30133797)
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Keywords | 言語進化 / 道具使用 / 対象操作 / 言語発達 |
Research Abstract |
Bickerton(1990)、Jackendoff(1999)は、ヒトのこどもの言語習得の研究が言語進化の研究に貢献する可能性を示唆していたが、具体的な研究プログラムを示してはいない。そこで、今年度は、ヒトの乳幼児の言語発達の研究に基づく言語進化の研究プログラムの模索を行った。進化生物学、比較認知科学、霊長類学、チンパンジーの行動発達、ヒトの乳児の行動発達及び言語習得に関する文献の収集を行い、小規模ながら文献情報のパソコンへの入力を行った。収集した文献の情報に基づいて構想しうる言語進化の研究プログラムの暫定的な見通しは次の通りである。竹下(1999,2001)は、形態の進化におけるのと同様に、行動発達の進化のメカニズムとしてもモザイク進化の異時性がヒトの知性の進化を特徴づける働きをしていると主張している。竹下(1999)は、このような観点からヒトの乳児の初期の行動発達について霊長類の乳児との比較研究を行い、姿勢-行動、対象操作、道具使用の発達に類似性が見られることを報告している。言語発達の研究も、このような観点から、言語の特徴をさらに細かな要素に分けてそれらの要素の発達とヒト及び霊長類の行動や認知機能の発達との比較を行い、相互関係(出現の順序やタイミング)を明らかにする研究を行うことが可能である。この研究は、霊長類など他の種の乳児の行動発達との比較が可能である点が言語進化の経験的な研究として特に優れている。Jackendoff(1999)は、言語が9つの段階を経て進化したという仮説を提案しているが、どのような淘汰圧によりそのような段階的な変化が起こったのかは述べてはいない。この仮説は、言語発達をヒトおよび霊長類の対象操作、道具使用、コミュニケーション能力、心の理論など言語以外の認知機能の発達の研究と比較することにより、経験的に検証し、淘汰圧に関する仮説を加えて、進化生物学的な仮説としてさらに洗練させてゆくことが可能であると思われる。次年度は、この方向でより具体的な言語進化の研究プログラムを構想する予定である。
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