Research Abstract |
親(養育者)による子どもの殺害やサディスティックな虐待,近親姦,育児の完全放棄が虐待として認知されるのには何の疑問もないが,不適切な育児や軽い虐待は判定が難しい。虐待を事件となる前に予防するためには,虐待についての共通の定義や意味が必要である。しかし,わが国においては,平成12年5月に児童虐待防止法において、「児童虐待」の定義がやっと明確にされたばかりである。そのため,本年度は過去10年間にわが国で発表された虐待に関する論文を分析し,虐待が過去にどのようにとらえられていたかを整理するとともに,虐待の防止のために看護職の取り組みとして世間が何を期待しているのかを考察した。また,親準備期にある未婚男女を対象に,子ども(赤ちゃん)のイメージに影響する生活体験や性役割意識を質問紙により調査した。 その結果,看護職は医療,保健現場において虐待を発見しやすい立場に置かれているのは事実であるが,虐待が発生あるいは疑いがある段階ではすでに予防は難しく,せいぜい子どもの命を守るための介入の時期を失しないことが重要となるだけである。この時点では親子間の関係修復を目指すよりはむしろ,早期に親と子どもを引きはなし,子どもの人権や生命を守る一方で,親に対して看護職がかかわるための継続的なケア体制やフォロー体制を準備し,実践することの必要性が示唆された。また,虐待の要因となりうる日常生活のストレス管理として,恒常的な心身の健康の維持,家族間の関係調整,母親の育児能力向上のための支援強化が遠回りなようでいて,重要な鍵を握ることも示唆された。 親準備段階の男女に対する調査からは,女性は男性に比べて子どもに対するイメージが肯定的であり,男性では兄弟が多いとき子どもに対するイメージが肯定的で,男女とも子どもと接した経験が多いほど子どもに肯定的イメージを抱いていることが明らかになった。このことは,親準備期にある成人男女にあっては,子ども(赤ちゃん)と接する経験を与えることによって,子どもを容易に受け入れることが可能となると考えられる。
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