2014 Fiscal Year Annual Research Report
Microcystis属ラン藻の異常増殖を制御するための生活環に関する研究
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13F03804
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Research Institution | Meijo University |
Principal Investigator |
原田 健一 名城大学, 薬学部, 教授 (90103267)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
BOBER Beata 名城大学, 薬学部, 外国人特別研究員
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | ラン藻 / VOC / 増殖挙動 / ストレス条件 / 細胞密度 / 生活環 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、自然界のラン藻類の生活環に着目し、湖沼生態系におけるラン藻類の制御法の確立を最終目標としている。今回、その一環としてラン藻類の生活環の解明を試みた。従来の研究から、ラン藻の生活環は自身が産生する様々な揮発性有機化合物(VOCs)により制御されると考察されることから、本研究期間では、Microcystis sp. の VOCs 産生挙動に注目し、他の4属との差異を以下の観点で明らかにした:①ラン藻類の増殖挙動、②VOCs の産生の有無および産生量、③VOCs の産生に関与する酵素(CCD1, CCD2, KDC)の遺伝子領域の存在の確認、④ストレス条件下における培養およびVOCsの産生挙動。その結果、増殖挙動では、光合成色素の一つである carotenoid 濃度が増加の一途をたどった。また、VOCs の定量を行ったところ、β-ionone などは同程度の検出量であったが、β-cyclocitral はMicrocystis sp. のみ多量に検出された。VOCs 産生に関与する酵素は、 Microcystis sp. 以外では確認できなかったことからβ-cyclocitralの生成は酵素的に、β-ionone非酵素的であることも示唆された。一方、ストレス条件下における実験では、窒素濃度を1/2倍にした培地では、成長やVOCの産生が大きく抑制されたが、リン濃度を1/4倍にした培地では、増殖に影響は現れなかった。細胞密度を20倍にした培地では、細胞数やpHは、ある一定の値以上は増加しないことが確認された。光強度ストレスを1/10倍にした培地では、増殖が遅く、長く生存することが示された。以上の結果から、carotenoidの濃度推移が、β-cyclocitralやβ-iononeの産生挙動と関連性があることが示唆されるともに生活環に深く関与することが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究実績の概要で述べたように、所期の目的は概ね達成されている。今回、用いた5 種のラン藻(NIES-843, Microcystis aeruginosa , PCC680, Synechocystis sp. NIES-611, Pseudanabaena sp., NIES-808, Anabaena lemmermannii Richter, NIES-989, Planktothrix agardhii)の増殖状態や光合成色素などを測定し、全てのラン藻が同様の増殖挙動を示すことを確認した。これらの挙動のうちで最も特徴的な結果は、光合成色素の一つである carotenoid 濃度の変動であり、培養期間中に減少は見られず、増加の一途をたどった。この挙動はラン藻類の生活環において重要と考えており、興味深い結果である。ラン藻類が産生する VOCs の同定と定量を行ったところ、β-ionone などは同程度の検出量であったが、Microcystis sp. において特異的に多量の β-cyclocitral が検出されたため、Microcystis sp. の生活環に大きく関与すると考えられる。これに関連するかたちで、上述の5種のラン藻で VOCs の産生挙動とそれらの産生に関与する酵素について調べた。その結果、VOCs 産生に関与する酵素は Microcystis sp. 以外では確認できなかった。β-Cyclocitral と β-ionone はともに溶藻活性を有する化合物であり、前者は Microcystis sp. に特異的であったのに対して、後者は被検ラン藻全ての種属で同程度産生されている。これらの結果は実験開始前にある程度予測された結果であるが、ストレス実験におけるVOC定量の再現性などに問題があり、現在繰り返し実験を行っている。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、これまで行ってきた実験を完全に終了させる。そして、以下に示す研究を行う:①ストレス下および非ストレス下におけるVOC産生を関連遺伝子の発現とVOC自身の定量から観察する。②ストレスの中で細胞密度が極めて重要と考察されていることから、その簡便な調製法を確立する。③ラン藻類が産生するVOCの機能を明らかにする一環として、電子顕微鏡による形態変化を追跡するとともに、④ポーランドのJagiellonian大学植物生理学学科との共同研究で生理学的な検討も行う。
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