2013 Fiscal Year Annual Research Report
一酸化窒素によるカルシウム放出が誘導する神経細胞死の分子機構解析
Project/Area Number |
13J00025
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
三上 義礼 東京大学, 大学院医学系研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | カルシウム / 一酸化窒素 / リアノジン受容体 / S-ニトロシル化 / 神経細胞死 / イメージング / 薬理学 |
Research Abstract |
一酸化窒素(NO)は、生体内で産生されるガス状生理活性物質である。NOが1型リアノジン受容体(RyRl)3636番目のシステイン残基(C3636プに結合(S-ニトロシル化)するとRyRlは活性化し、小胞体から細胞質にカルシウムを放出する。この現象を「NO誘導カルシウム放出(NICR)」という。本研究では、RyRlのS-ニトロシル化が実際に神経細胞で起こり、神経細胞死に至る過程に直接的に関与していること明らかにしていく。最終的に、神経変性疾患や脳損傷などによって起こる神経細胞へのダメージを軽減するためにNOによるRyRlを介したカルシウム放出経路を治療・創薬のターゲットとして活用することを目指す。 本年度は以下の成果を得た。 1、生化学的手法により、大脳皮質や海馬にRyRlが発現していることを確認した。さらに、S-ニトロシル化を受けたタンパク質を同定するビオチンスイッチ法にて、実際に脳でRyRlがS-ニトロシル化修飾を受けることを確認した。また、免疫染色法により、大脳皮質初代培養神経細胞にRyRlが局在することも示した。 2、マウス大脳皮質より神経細胞の初代培養を作製し、カルシウムインジケータを用いて、細胞内カルシウムイオン濃度を計測した。野生型マウスでは、NOのドナー化合物を加えると細胞質のカルシウム濃度が上昇し、NICRが観察された。一方、RyRlの3636番目のシステインをアラニンに置換したノックインマウスではNICRが起きなかった。 3、野生型マウスから得られた初代培養神経細胞にNOドナー化合物を作用すると、神経細胞の突起の縮退や形態異常が見られた。一方、ノックインマウス由来の神経細胞では異常が軽減された。また、JC-1染色でも、ノックインマウス由来の神経細胞では細胞死が軽減していた。 今回得られた結果は、神経細胞においてもRyRl-C3636のS-ニトロシル化がNICRを引き起こし、続いて神経細胞死が起こることを明らかにしたものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では、本年度は分子レベル・細胞レベルでの解析を中心に行うと位置づけていた。マウスの脳初代培養神経細胞を用いた神経細胞死の評価、および、RyRlの3636番目のシステインをアラニンに置換したノックインマウスの繁殖を予定としていた。カルシウムイメージングや細胞死の評価は予定通り進んでいる。ノックインマウスの交配・繁殖が順調に進んだため、このマウスを用いた研究を既に着手しており、個体レベルでの解析も開始している。
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Strategy for Future Research Activity |
細胞レベルの解析では、神経細胞死の定量解析を進めると共に、そこに至るシグナル経路を明らかにしていく。細胞内オルガネラ特異的に発現する遺伝子コード型カルシウムインジケータを利用し、細胞内カルシウム動態を手がかりに、一酸化窒素(NO)による細胞障害が起こる経路を可視化する。 個体レベルでの解析も進めていく。脳梗塞モデルマウスにおける脳梗塞部位の形成にNO-RyR1シグナルが関与していることが分かっているが、これ以外の病態モデルマウスでもRyRlのS-ニトロシル化とNICRが神経細胞死や損傷に必要かどうかを検証していく。 これらの解析を進め、脳神経疾患におけるNICRの病態生理的意義を明らかにすることを目指す。
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Research Products
(8 results)