2014 Fiscal Year Annual Research Report
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13J00208
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
川上 文人 京都大学, 霊長類研究所, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 笑顔 / 表情 / 非言語コミュニケーション / 発達 / 進化 / チンパンジー / 感情 / 遊び |
Outline of Annual Research Achievements |
1)研究の目的 本研究課題の研究目的は,ヒトの対人関係に大きく作用する非言語コミュニケーションを理解するための突破口として笑顔に焦点を当て,笑顔のヒト科における系統発生について実験室,飼育下,野生というさまざまな環境から体系的に明らかにすることである。本年度は大型類人猿における笑顔の使用場面を観察により探るため,京都大学野生動物研究センター熊本サンクチュアリ(KS),日本モンキーセンター(JMC)において飼育下チンパンジーの観察を行った。 2)成果の具体的内容 これまでの2個所における飼育下チンパンジーの観察では成体同士の笑顔が1回も見られなかった。そこで,KSにおいて成体オスで構成された群れの観察を行った。その結果,50時間の撮影で18回の笑顔が見られ,いずれも遊び場面におけるものであった。今後,笑顔の形,継続時間,遊び開始から笑顔表出までの潜時を分析することにより,子どもによる笑顔と成体同士の笑顔の相違点を探る。成体の方がより社会的に笑顔を使用している可能性もある。JMCには2014年7月にチンパンジーの乳児が生まれ,その母親と父親と3個体で生活している。これまで行った生後4か月までの分析で,2か月ではじめて笑顔が観察された。笑顔の頻度は3回であった。どれも母親が「高い高い」などで関わっていたときに生じていたが,母親は子の笑顔を見ても笑顔を見せるわけではないようである。 3)意義と重要性 チンパンジーも成体同士で遊んで笑顔を見せること,笑顔を見せはじめるのは生後2か月頃であることを確認できたこと,母親が子の笑顔に敏感ではないようであることを見いだした。これまでの観察で明らかになったのは,チンパンジーは笑顔を伝染させないという傾向である。遊びの当事者ではない第三者が笑うことはまれであり,子の笑顔に母親がつられることもない。これらの点がヒトの笑顔との相違点なのかもしれない。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
飼育下チンパンジーにおける観察について,KSにおいて成体オスのみで構成された群れ,JMCにおいて新生児を観察できる環境に恵まれたこともあり,飛躍的に進展している。2つの施設での観察で示唆されたのは,笑顔が遊びによる個体内の快感情を反映するものであり,他個体に拡がっていかないというチンパンジーの笑顔の特徴であった。今後,観察で見られたチンパンジーの笑顔の特徴について,実験室での確認も行っていく。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は観察によりチンパンジー乳児の笑顔を中心とした社会的な発達を縦断的に追い続けるとともに,表情の伝播,表情の認知について実験的検討を加える。実験とさまざま環境におけるチンパンジーの観察を組み合わせることにより,笑顔の起源に迫っていく。
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Research Products
(9 results)