2014 Fiscal Year Annual Research Report
チャンネル構築ゲームとしての言語的/非言語的コミュニケーションの分析
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13J00209
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
三木 那由他 日本大学, 文理学部, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 言語哲学 / 意味 / コミュニケーション / グライス |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、グライスによる意味の分析を下敷きにし、言語的コミュニケーションと非言語的コミュニケーションを統一的に捉える枠組みを構築することを目標としていた。前年度はそのための第一歩としてグライスの理論を再検討し、それが適切な基礎を与えるかどうかを確認した。だが結果として前年度の研究においてグライスの理論には重大な問題がある可能性が高いことがわかった。したがって、本年度は、グライスの理論に変わる基礎理論を考えなおすという基礎的研究に向けられた。 前年度の研究をもとに、報告者はグライスによる話し手の特殊な意図を話し手の意味と同一視するという想定が誤りであると考えた。その問題点は、意味という話し手と聞き手にとって共有可能な公的な現象を話し手の意図という私的な現象と同一視し、結果的に意味の公共性を確保できていない点にある。だが他方で、グライスらが指摘しているように、話し手の意味が話者の心理と密接な関係にあることも疑い得ない。それゆえ、コミュニケーションを理解する枠組みとなる意味の理論には、その基礎的な概念として公的でありながら話し手の心理と密接に関わるという一見すると相矛盾するかに見える特徴を備えた何かが必要となる。 報告者は、発話の持つ公共的な特徴が、話し手の信念への推論を可能にする要素を含むときに話し手の意味が成立するという新たな理論を提案し、これを「信念証拠意味論」と名づけた。これは意図という私的な概念に依拠していたグライスの立場と異なり、それ自体は公的でありながら、推論的関係によって間接的に話し手の心理に結びつく証拠としての発話のあり方に依拠するものとなっており、グライスに提示されたさまざまな問題を回避できる可能性を持っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前年度の研究成果として、本研究で当初の基礎理論として想定していたグライスの理論の問題点が明らかになり、本年度はそれに変わる新たな基礎理論を構築することを目標としていた。この目標に対し、報告者は信念証拠意味論という新たな理論を構築し、これがグライスの理論に想定される問題点を乗り越えていることを確認した。信念証拠意味論にも未検討な部分や問題点があると考えられるが、前年度の研究で明らかになった障壁を取り去るのに十分な枠組みを提供するものと期待される。それゆえ、次年度においては信念証拠意味論の精緻化を試みつつ、これを基礎理論として据えて、当初目指していた言語的コミュニケーションと非言語的コミュニケーションの統一的理解に向けたフレームワーク構築へ改めて研究を進めることができるだろう。それゆえ、本年度に望まれる成果は十分に挙がったものと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度の方針として、信念証拠意味論を基礎に据えつつ、特に指差しなどの直示に着目し、そうした直示が話し手と聞き手の双方にとって同じものを指すと了解される事態がいかにして成立するのかを考察することで、コミュニケーションの統一的理解のための枠組みの構築を目指す。その際、近年の哲学や心理学の分野で広く注目を集めている共同志向性(collective intentionality/shared intentionality)という現象を取り上げ、それが直示の理解とどのように関わっているのか、そして共同志向性がいかにして成立しているのかを考察することで、共同志向性が可能にする情報の流れと、その際の情報チャンネルのあり方を分析する。 次年度の最初の目標は、共同志向性の成立条件をめぐる諸立場を整理し、もっともらしい共同志向性の成立条件を提示することである。そのうえで、共同志向性と直示の関係を分析し、直示がどのような仕方で話し手と聞き手の共有する情報を変更するのかを調査する。さらに直示の分析を他のコミュニケーション様式へと一般化することで、コミュニケーションの統一的理解を目指す。
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Research Products
(4 results)