2013 Fiscal Year Annual Research Report
マニエリスムからバロックヘ―16世紀後半・様式転換期におけるイタリアの芸術と理論
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13J00231
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
小松 浩之 京都大学, 大学院人間・環境学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | イタリア / イタリア美術史 / マニエリスム / バロック / 対抗宗教改革 / 芸術理論 / ロマッツォ / アルチンボルド |
Research Abstract |
今年度はおもに、16世紀後半ミラノの芸術理論家ジャン・パオロ・ロマッツォの芸術観について理解を深めるべく、その著作『絵画芸術論』(1584年)、『絵画神殿のイデア』(1590年)をはじめとする一次資料の読解に取り組んだ。くわえて、ロマッツォの理論と同時代の芸術作品との関係を検討するために、ミラノなどの北イタリアを中心に聖堂、美術館での芸術作品の現地調査を行なった。まず、ロマッツォが、16世紀イタリアで流行した絵画と詩の類似や相違をめぐる議論を読み替え、ことばとイメージが共働するハイブリッドな表現形式を模索していたことを確認した。そして、これまで部分的にしか公刊されていないミラノ、アンプロジアーナ図書館所蔵の『皇帝献詩集』(1591年)を分析し、アルチンボルドの二作品《ウェルトゥムヌス》、《フローラ》のミラノにおける受容について新しい知見を得た。この調査を通じて、使い古された批評言説が当時のミラノにおいて新しい表現形式の糧となりえたこと、その実践というべき作品が制作されていたことを明らかにした。 さらに、ロマッツォの理論における様式の複数性と折衷主義の関係を明らかにするために、北イタリア、スペインへのマニエリスムの伝播に寄与したティバルディなどの作品を調査した。とりわけ、ミケランジェロ主義を基調としつつ、対抗宗教改革期の好みの変化に順応したティバルディの実践的な折衷主義と、ロマッツォの理論における数の様式のなかから取捨選択された理想的絵画との相違について検討した。この調査を受けて、ロマッツォの議論が、同時代の芸術家の実践よりもむしろ、カラッチ一族やジョルダーノなどの17世紀の画家たちの選択的な様式模倣と通低しているのではないかという仮説にいたった。このことを踏まえ、17世紀の選択的な様式模倣についてさらなる調査・検討を重ねることで、マニエリスムからバロックへの様式転換の要因の究明につながると考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度の研究実施計画では、①ロマッツォの理論と同時代の芸術作品の関係、②ロマッツォの理論における様式の複数性と折衷主義の関係、上記2点を明らかにすることを課題とした。①では16世紀イタリアで流布した議論を読み替えるロマッツォの理論の特異性について明らかにし、②ロマッツォの理論の後世の芸術作品および批評への影響にかんして大きな手がかりを得たため、研究は順調に進展したと言える。しかし、16世紀後半ミラノにおけるスペイン人貴族の芸術作品の注文・蒐集について資料収集が不十分であった。この点については今後の課題としたい。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度の調査を通じて、ロマッツォの理論における折衷主義による理想的絵画が、17世紀の画家たちの選択的な様式模倣と類似していることが確認できた。この成果を踏まえ、ロマッツォの理論形成について検討する。ロマッツォの議論の批評的な性格に鑑み、ピーノ、ドルチェなどの16世紀イタリアの批評テクストや、北イタリアの芸術作品の注文主・蒐集家の動向が調査対象となる。さらに、カラッチ一族やジョルダーノら17世紀の芸術家の作品と同時代の批評テクストをあわせて検討することで、ロマッツォの後世への影響にかんする新たな知見の獲得も期待される。これらの調査を経て、本研究の課題であるマニエリスムからバロックへの様式転換という問題に、16世紀後半から17世紀のコレクショニズムの動向という新たな視点を与えることができるはずである。
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