2013 Fiscal Year Annual Research Report
メゾスコピック非線形動力学に注目した生命動態の同定, 予測, 制御に関する研究
Project/Area Number |
13J00374
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
内山 祐介 筑波大学, システム情報工学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 非線形波動 / 生成・死滅過程 / 非定常マスター方程式 / Poisson分布 / 長期記憶 / 大偏差統計 / 一般化Cauchy過程 / 非整数階微分 |
Research Abstract |
平成25年度の研究成果として, (1)空間1次元系の複素Ginzburg-Landau方程式(CGLE)の欠陥乱流域における確率・統計法則の発見, (2)欠陥乱流中のホール速度揺らぎの同定, (3)空間2次元系CGLEのSpiral Wave Turbulence (SWT)に現れる統計法則の発見の計三つが得られた. (1)は先行研究によってヒトの心臓との関連が指摘されている現象である. 本研究では欠陥乱流を, Defect, Hole, MAWという三種類の非線形波動の生成・死滅過程として捉える立場から, それらの反応則を導出した. この反応則をもとに非定常マスター方程式を導出・解析することで各波動の個数と寿命の確率・統計法則を同定した. その結果, 個数の確率分布はPoisson分布に従い, 寿命の確率分布は裾の厚い尾を持つ事が明らかになった. この結果は対象としている系に長期記憶の効果が存在することを意味している. (2)では欠陥乱流中で同定した各Holeの軌跡を追従し, それらの速度の時間変化を解析した. 従来の非線形波動に関する研究では, それらの移動速度は時間的に一定であるとされていた. しかし, 本研究で観測された欠陥乱流中のHoleの速度は必ずしも一定値をとらないことが明らかになった. これは(1)で扱った非線形波動同士の相互作用の結果, 運動量の交換が頻繁に行われたことによるものであると考えられる. さらに空間全体に存在するHoleの速度変化を確率過程とみなすと, 定常分布が大偏差統計に従い, 自己相関関数が厚い裾を持つことが明らかになった. これらの情報をもとに, 時系列データを非整数階微分一般化Cauchy過程でモデル化した. (3)心臓病の中でも最も危険なものの一つである心室細動との対応が指摘されているSWTを対象に統計解析を行った. 先行研究の多くは位相特異点数の揺らぎに着目している一方で, 本研究では特徴長さと呼ばれる量を対象とした. この量の確率分布を求めたところ, 厚い裾野とカットオフという二つの特徴を有することがわかった. 三次の非線形性を持つ一般化Cauchy分布によって, この確率分布を同定した. 以上の結果はCGLEに基づいた生命現象の理解という目的に対して, その統計法則を明らかにしたという点で意義のあるものである.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の計画通り, 空間1次元系のCGLEの欠陥乱流域における確率・統計法則の発見と, 空間2次元系のCGLEのSWTの統計解析を行うことができた. これらの結果に加えて, 欠陥乱流中でのHoleの速度揺らぎが従う確率ダイナミクスを同定できたことは当初の計画以上の成果である. これらの結果は疾病のリスク因子抽出の際の方法論構築に新たな知見を提供できる可能性がある.
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Strategy for Future Research Activity |
より実体に近い議論を行うことを目的に, 今後は空間2次元系を重点的に研究していく. その一つの指針として, 局在化した非線形波動の生成・死滅過程という視点でダイナミクスを解析する. そのための第一歩として, 空間2次元系のダイナミクスで重要な役割を演じていると思われる非線形波動の分類・同定を行う. これらの非線形波動を実際の乱れた系で検出する方法を構築した後, 対応する生成・死滅過程に基づいた確率・統計解析を実行する. この解析で有用な疾病のリスク因子が抽出されれば, それらを生体の数理モデルとして広く用いられているイオンチャネルモデルにも適用し, その効果を確認する.
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Research Products
(6 results)