2013 Fiscal Year Annual Research Report
主体とコミュニケーションをめぐる社会理論の刷新に向けてー精神分析の視点から
Project/Area Number |
13J00436
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
古川 直子 京都大学, 大学院人間・環境学研究科, 特別研究員PD
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Keywords | 精神分析 / セクシュアリティ / 性科学 / 精神医学 |
Research Abstract |
本年度はまず、精神分析という思想を、19世紀末ヨーロッパの精神医学や社会的状況といった歴史的文脈に還元しようとする近年の歴史家たちの傾向を批判的に検討した。ジェンダー・セクシュアリティに関する従来の研究においては、M・フーコーによる、19世紀の性科学と精神分析の近縁性を指摘する議論に基づいて、フロイトを歴史化精神分析のセクシュアリティ概念が不当に低く評価されてきた側面がある。 しかし、本研究では、1880年代~90年代の独仏語圏における精神医学・性科学の文献を収集し、当時の精神医学・性科学と精神分析のセクシュアリティ概念を比較することで、精神分析におけるセクシュアリティ概念の特異性を明らかにした。 さらに、このようなフロイトの歴史的再定位とともに、フロイト思想の中核である「性的な無意識」という視点の成立をテクストの内在的読解によって考察した。フロイトの理論にセクシュアリティという概念がもちこまれたのは、神経症の原因を遺伝に帰していた19世紀のヨーロッパ精神医学に対して、幼児期の性的誘惑が外傷として機能するという着眼(「誘惑理論」)によってであった。この誘惑理論の放棄という理論的転向は広く知られ、多くの論者によって批判されてきたのであった。しかし、このときフロイトが「系統発生」という当時の科学的水準からしても奇妙な生物学的観念に回帰していった事実はあまり注目されてこなかった。しばしばフロイトは生物学主義的であると批判され、フランスの精神分析家J・ラカンが彼の生物学的傾向を払拭したと評価されることがある。しかし、フロイトにおける「生物学」の地位は、この系統発生という概念に代表されるように非常に特異な意義をもっている。本年度の研究ではこれを、外傷的なセクシュアリティの抑圧によって生じる無意識という精神分析固有の発見を担保するために要請されたものであったことを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在までの研究で、フロイトのセクシュアリティ論を歴史的文脈のなかに再定位し、さらに「性的外傷」や「性的抑圧」といった精神分析の根本的な概念でありながら、これまでその意義が十分に検討されてこなかった論点を問い直すことで、「性的な無意識」という独創的な知見の意義を明らかにすることができたため。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究では、フロイト思想の中核である「性的な無意識」という視点に裏付けられた精神分析のコミュニケーション論の独自性を、より内在的かっ厳密に読解し、これをもとに社会的相互作用をめぐる諸理論との異同を比較検討してゆく。また、このような精神分析の知見が既存のセクシュアリティ論の展開に寄与をもたらしうる点について解明してゆく。
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Research Products
(1 results)