Research Abstract |
陸産肉食性ヒル類の分類群であるクガビル属Orobdellaの既知種を対象とした分類学的再検討を実施した. 再検討では, 82地点より採集された230個体の標本の観察に基づいて既知種の判別形質の更新, 再記載を行った. 加えて, ミトコンドリア遺伝子の複数マーカーも用いて, 既知種の系統関係を推定した. 分類形質の観察と系統関係, 遺伝距離の結果から, 本属の既知種中には隠蔽種が存在することを明らかにした. また, 得られた結果から, クガビル類における消化器官, 特に胃通管と咽頭の形態進化についても考察を行った. 琉球列島と台湾に分布する種の系統において咽頭の伸長と胃通管の退化傾向が認められた, このことは胃通管の機能を特定する上で重要な視座を与えるものと考えられた. 更に機能が不明であるクガビル属の胃通管について, その機能を特定するべく, 標本の準備, 飼育系の確立に取り組んだ。試料観察において胃通管内に精包が充填された個体が1標本のみ認められた. クガビル類の雌性生殖器は非常に単純な構造をしており, 精包を受け取る構造が存在していない. そのため, 胃通管は精包を受け取り貯蔵する機能を有している可能性が浮上した. このことは, 精包を作り出す器官である雄性生殖器の前立腺腔が発達している種では, 胃通管も発達しており, 逆に前立腺腔角が未発達の種では胃通管が単純な管状, または痕跡器官となっていることからも支持される仮説である. また, クガビル属以外の肉食性ヒル類の消化器官の組織学的構造ならびに進化を明らかにするために, シマイシビルErpobdella japonicaらびにキバビルOdontobedella blanchardiの標本収集を行い, 消化管の微細構造を観察するための十分量の標本収集を完了した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
肉食性ヒル類の標本を十分量採集することに成功し, 電子顕微鏡用の試料作製も開始できる段階に到達している. またクガビル類の胃通管についてもその形態的多様性を記載・把握することに成功している, 系統関係の推定のための分子データも順調に獲得できている. 微細構造の観察に遅れが出ているが, 次年度中にデータが取得できる段階にあるため, ②と判断した.
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Strategy for Future Research Activity |
消化管そしてクガビル属の胃通管の微細構造を把握するため, 年度前半に電子顕微鏡による試料観察を実施する, それに加えて, 胃通管の機能を明らかにするために, クガビル属2種の飼育を行い, 交接の観察を試みる. 飼育下観察が順調に実施できない場合は, 得られたクガビル属の分子系統と胃通管, その他の形態形質を対象として系統種間比較法を実施し, 胃通管の機能について考察を行う
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